第22章 取り敢えずの円団と屈託のある別れ
「・・・ねえ、牡蠣殻さん。アンタえらく疲れて見えるよ?もう帰りましょ?何だかんだで波平様も待ってますよ?具合悪いんですか?」
肩に手をかけようとした藻裾に、牡蠣殻は体を引いた。
「触らないように。傷や怪我は?貴女、あちこちで暴れたでしょう?」
「ありませんよ。牡蠣殻さん、大丈夫なんスか?」
「貴女は体が小さいから。気を付けて下さい」
息を吐いて牡蠣殻は立ち上がった。
「私も腹が空きました。客舎に行ったら私の朝食も出ますかね?」
「あはは、出なきゃ波平様の分を食っちまえばいいっスよ」
「ははは、ソレ、よくやってますよね、汐田さん」
「ちっとやり過ぎたら減給だけど、牡蠣殻さんなら初犯だから大丈夫!」
「・・・そう?まあでもね、あまり美味しく食べられなさそうだから止めときますよ。波平様はね、アレで根に持ちますからね。十年も前のケーキの苺の配分を未だに持ち出す漢ですからね。面倒くさい思いするくらいならそこらの雑草を食べますよ、私は」
「雑草じゃ力出ねえスよお。いいじゃん、波平ブレックファースト頂いちゃえば。そいともあそこのデッカイのとティファニーで朝食しちゃうつもりスか?ぶっ、テ、テハニー・・・牡蠣殻さん、似合わねえ!!」
「誰がヘップバーン気取って身代潰すと言いました。いい頃加減で妄想の黒い翼はもぎりなさい。育ちが早いですからね、そういう類いのモノは。それより何です、あそこのデッカイのってのは」
「だってアレでしょ?牡蠣殻さんをノッコミに引っ張ってった野郎は?違う?アタシの大いなる勘違い?」
「ノッコミ言いなすな。私は魚じゃないですよ」
「でもアレは魚スよね?」
「・・・違うとは言い切れな・・・あだだッ」
「磯の女性は口が減らない。下世話な話は止めなさい」
牡蠣殻の耳を吊り上げて、鬼鮫が藻裾を睨み下ろした。
「私は魚ではありませんよ。干柿鬼鮫と申します。あなたがこの牡蠣殻さんと親しい間柄であるならば、また相まみえることもあるでしょう。お見知りおきを」
藻裾は鬼鮫を見上げてゲラゲラ笑い出した。
「鮫ってアニさん、魚じゃないスか!」
「あだッ」
鬼鮫に叩かれて、牡蠣殻は目を吊り上げた。
「何で私を叩くんです!?おかしいですよ、ちょっと!!」
「この人はあなたの連れでしょう?連帯責任です」
「待って下さい。意味がわからない」
「躾がなってないと言っているんですよ」