• テキストサイズ

連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第22章 取り敢えずの円団と屈託のある別れ


木の葉の里に朝日が差す。
波平は屋根に座って、まだ湯呑みを傾けていた。
波平は産まれてこの方、泥酔というものを経験した事がない。いくらでも呑めるし、いくら呑んでも乱れない。呑みの席での波平は、人呼んで底の抜けたザル。
「・・・思うと私を表す言葉は物の役に立たぬものばかりだな」
波平はしんみりと呟いて首を捻る。
「そういう私が何の因果で影の息子に生まれついたのか・・・。誰の仕業か知らんがさっぱり訳がわからない・・・」
「クク、何をブツブツ言ってんだ、お前は」
笑い声に振り返るとアスマがいた。
「何だ、酔い潰れて寝ているのかと思った」
「おいおい、甘く見るなよ。お前程じゃないが俺だってそう弱くはないぞ」
「そうだったかな。自分より強い相手を見た事がないから、強い弱いが今一つわからなくてね」
波平は朝焼けの始まった東の空へ目を細めた。
「お前の言ってた内緒の話ってヤツだが」
波平の隣にあぐらをかいて、アスマが持参の湯呑みを突き出す。波平は意外げに眉を上げたが、一升瓶を傾けて酌をした。
「成る程、強いらしいな。迎え酒とはなかなか豪気だ。しかし紅に叱られるぞ」
「話をそらすなよ。お前、好きな女がいるんだろう?うまくいきそうなのか?」
湯呑みに口をつけてアスマはにやにやする。波平は空の湯呑みを振ってアスマに酌を促した。
「さあ、それがさっぱりわからなくてね。どこいらへんを見ればうまくいきそうか、そうじゃないのかわかるんだろうね。教えてくれ、アスマ」
やけになみなみと注がれた酒を変わらぬペースでスイスイ流し込みながら、波平は問いかけた。
アスマはうん?と洩らして顎を撫で、
「そうだな・・・うーん。・・・何だろうな?俺もよくわからん。大体どんな相手かも知らないのに、どこを見たらいいかなんて考え付くか」
「ふん?一理ある、かな?」
波平はフに落ちたような落ちないような様子でアスマを見た。
「しかし誘導しようとしても無駄だよ。私は人の口を割るのが得意だが、その分自分の口は固い。いくらお前が相手でも私の大切な秘密は教えない。その為の早起きなら残念だったな」
アスマは肩をすくめた。
「何で秘密だの内緒だの言って隠すんだ?」
「立場上迂闊に誰かを恋しがっては相手に迷惑がかかるだろう?内緒内緒だ」
「そんな事言ってたら当の本人に気持ちを伝えられないじゃないか」

/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp