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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第21章 互いに印す事


「あなた、磯の要人だったのですね」
「この様な体ですからね。容易に駒にされぬように波平様が取り計らわれました。波平様が磯長になってこの方、あの人の補佐をしています」
鬼鮫と牡蠣殻は目を会わせあった。
「駒になっていたじゃないですか。一年前の、更には今のこの様は何です?深水さんの懸念がよくわかる。何故あてにもならない磯影を慕う必要がありますか?あなたの問うた籠とは何です?浮輪の掌で泳ぎ回る事があなたの言う自由ですか。どうやら私はあなたを買い被ってい・・・・」
牡蠣殻が鬼鮫の頬をつねり上げた。
「・・・・何の真似ですか、これは」
「貴方の真似ですよ、勿論」
牡蠣殻は口角を上げて目を細めた。
「何処に居ても恋しい事に変わりはありません。私は貴方が好きです」
言って、牡蠣殻は鬼鮫の額に自分の額を重ねた。
「どうか貴方が私を忘れませんように」
「・・・忘れませんよ、あなたに腹を立てているうちはね」
鬼鮫は頬をつねる牡蠣殻の手を握った。
「まじないじみた真似よりもう少しマシな事をしたらどうです?」
「機会があったら」
牡蠣殻が重ねた額を離して空を見上げた。
夜明けの空に鮮やかに真黒く大きな鳥影が浮かび上がっている。
「デイダラが来ましたね」
鬼鮫は稜線から射し込む朝日に目を細めた。
「騒がしくなる前に一つ」
握った手を引き寄せて、牡蠣殻の掌に口を着けた。
「あなたを殺すのは私だ。体の質でも病でも事故でも、まして他の誰でもない。私から逃げ切ろうなどと努々考えないように。・・・お忘れなく」
「文字通りの殺し文句ですねえ」
「そう、文字通りですよ。初めからそう思っていましたから」
鬼鮫は牡蠣殻の手を離して立ち上がった。
「待ち人来るですよ」
近くから深水とイタチの声が聞こえた。
「くどい。幾ら聞かれても解らないものは解りませぬ。何ですか、しつこく根掘り葉掘り、磯に二心お持ちか?けしかりませんな」
木陰から二人が姿を現す。
「二心などない。興味深いと思うまで・・・ああ鬼鮫、牡蠣殻さん」
イタチがこちらに気付いて頷いた。 深水も足を止める。
「牡蠣殻。居たか」
「居りました」
「うむ・・杏可也は?」
「近くに居られると思います。先程同道の方らしい姿を見掛けました」
「そうか」
深水の表情が緩んだ。イタチは興味深そうに二人を見た。

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