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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第21章 互いに印す事


砂の国境北、一番乗りしたのは鬼鮫と牡蠣殻だった。
「誰もいないとは驚きました。厭な感じがしますねえ」
辺りを見回して鬼鮫が顔をしかめる。
「何ですか、ヤな事言わないで下さいよ」
牡蠣殻は牽制するような目で鬼鮫を見、手を振りながら息を吹いた。
「また魔除けですか。案外迷信深いんですね・・・」
「まあそうそう効かないのはわかってますけどね・・・・」
「・・・何で私を見るんです」
「いや、何となく・・・・」
首を振って牡蠣殻は傍らの木の根元に腰を下ろした。
「すいませんが・・・」
「どうぞ」
「失礼します」
懐から出した煙草入れを開けると、中は最後の一本きりになっていた。
「あぁ、終わりですね・・・」
呟いてそれをくわえた牡蠣殻に鬼鮫がフと尋ねる。
「どこで手に入れているんです、それは」
牡蠣殻は火を着けるのを止めて、煙草を手に取ってしげしげと眺めた。
「山里で手に入れていますが、次はいつ行けるか・・・」
「・・・あなたも里を抜けたらいい。そうすればいつでも好きな時に好きなところへ行ける」
鬼鮫に言われて牡蠣殻は目を瞬かせた。煙草を戻して考え込む。
「・・・私の家族は山里に暮らしていますが」
「は?」
「あちこちに磯は散らばっているのですよ。移動の際に他里の者と結ばれたり、仕事を得て定住したり、条件を満たせばそこに残る事が出来る。自ら言い出した者だけがそうして散在しています。これは数ある里の暗黙の了解の一つ」
牡蠣殻は考え考え、一度言葉を切った。
「望む者は多くはありません。望む事すら考えもしない里人が大多数、皆土地がなくとも磯を故郷と心得ているのでしょう」
「あなたもそうだと?」
「一言では言えませんねえ・・・散在した者にしても、私の家族も含めて磯を里と思い定めていますしね。・・・追々機会があったらお話しますよ、色々と」
先を約束するような事を言う牡蠣殻に鬼鮫はフと笑った。
「抜ける気はないという事ですか」
鬼鮫の言葉に牡蠣殻は目を泳がせた。
「要職に就く者には容易ではないですね。先生が許されたのは恐らく波平様のご尽力に依るものでしょう。長老連の反対を押し切るのに木の葉の力を借りたのかも知れません。あれで気の優しい波平様は先代の取り巻きである長老連に強く出れませんから」
鬼鮫は鮫肌を背中から下ろして牡蠣殻の隣に腰かけた。

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