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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第18章 内緒


「ペシニストだね、波平さん」
カカシが苦笑いする。
「幸せは一つじゃないでしょ。色んな形で色んなところに転がってるモンだよ。まあ、簡単に見つけられるものでもないけどね」
「それを見つけるために自分で選択して貰いたいんだよ。里人達にはせめて自由であって欲しい。だからと言ってそれがいい目に出るとは限らないだろうがね」
波平は手酌で湯呑みを満たすと、それをまたスイスイと呑み干した。
「色んな形の幸せがある。私はそれを知っているよ。だから望みが叶わなくても満ち足りていられる。即ち幸せだ。形は違えど、それぞれがそうであればいいのだけれどね」
「諦めて生きるのも幸せって事?」
紅が眉をひそめた。
「例えば一人の人を望んで叶わなくても、他の人を望みたくなるときが来るかも知れない。でなければ誰かに望まれる事があるかも知れない。そういうものを拒んで独りでいて、それでいいと?」
「おいおい、何の話だよ」
アスマが目を瞬かせて波平と紅を見比べた。
「私は他を望まないし、誰かに望まれても心から答える事は出来ない。大事なものは生涯に一つでいい。単刀直入に言って、あまり器用な質ではないのでね」
波平は唇の上に指を乗せて三人を見回した。
「酒の席での内緒の話だ。里を散開するに当たって、私にも着いてきて欲しい相手がいる」
見回された三人は顔を見合わせた。
波平はまた湯呑みを満たして、窓の表を眺めた。
「今の話は半分そういう事」
夜半を過ぎて月はますます明るい。
「木の葉には迷惑をかけるね。しかし磯は手に職をつけた有能な者が多い。皆必ず役に立つだろう」
「波平は、散開して、それからどうするんだ?」
アスマに問われて波平は淡々と答えた。
「一人でも今のままの磯人でありたい者がいるなら、一緒に流浪を続けるよ。でなければ気儘に何処へでも赴こう。木の葉に身を置く里人に必要なのは磯長ではなく火影だからね。それをはっきりさせる為にも私はここを去らなければならない。父の代の長老連が私を見限って色々と画策しているようだが、音のような里に呑まれるくらいなら散開するのが正道。一年前、長老連の発案に逆らいきれずに民を売った時点で磯の散開は決まっていた。矜持を守れずに結束が要の小さな里があり続ける事は出来ない。木の葉との同盟は渡りに舟、更に今回の音との確執が背中を押してくれた。昼行燈の最後の仕事だ」
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