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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第18章 内緒


「波平。お前、本気なのか?」
壊れた窓枠の外、風通しのいい屋根の上で、缶ビールを呑みながらアスマは磯影の名を戴く旧友を見た。
「綱手様には話してある。後は里人がどうするかだよ。私には全員の先行きを決める度量がない」
日本酒を湯呑みでスイスイ呑んで、波平はあっさり言う。
「あなたを頼っている里人には酷な言い方だね。三代目も草葉の陰で歯軋りしてるんじゃない?」
カカシが呑み終わった缶を悪戯に振りながら、言葉の割りに愉快そうな顔をした。
「まあ、あなたらしくていいけどね。俺は磯の人間じゃないし、とやかく言う気はないよ」
「十分言ってる、カカシ。大体いつまで呑んでる気なの、あなたたち。いい加減にしなさい」
アスマから呑みかけのビールを取り上げて、紅が顔をしかめる。
「今度いつ会えるかわからないんだぜ?いいじゃないか」
アスマはヒョイと部屋に飛び込んで、勝手知ったる風にダイニングキッチンの冷蔵庫を開けた。
「カカシ、呑むか?」
空き缶を手持ち無沙汰に振り続けていたカカシは、首を傾げて少し考えてから、
「貰っておこうかな。これ、アスマの置き酒でしょ?遠慮なく頂くよ」
「呑め呑め。たまにゃいいさ。なあ、紅」
アスマが笑いながら言うのに、紅はしかめ面でアスマの呑みかけのビールを呑み干した。
「アスマと紅は、一緒になるのだろうね」
フと波平が言った。
「ここで子供をつくって家庭を築くのだろう。地に足が着くと言うヤツだね」
アスマと紅は顔を見合わせた。
「羨ましいわけ?」
「羨ましい?」
カカシに問われて、波平は呑みの手を止める。
「単刀直入に言って、特にそうは思わない。私は何処にいても十分満足出来るよ。自分に大事なものさえはっきりしていれば」
「そりゃ皆そうでしょうよ」
「場所というしがらみがあるかないかは大事な問題だね。故郷というヤツだよ。そこへの恋慕は磯の満たせるものではない」
波平は再び酒に口をつけて、淡々と言った。
「里人には出来れば皆幸せになって欲しいものだよ。無理だろうがね」
「無理とは限らないだろう」
アスマの言葉に波平は首を振る。
「一つしか叶わない望みがあるとして、それを二人の人間が望んだら、必ず一人の望みは叶わない。例えば紅を好きだと望んでも、アスマがいる限りそれは叶わないだろう?飽くまで例えだが、人生には往々にしてそういう事がある」
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