第2章 遂行しづらい任務
「どうしました?」
訝しげに見返してくる牡蠣殻に、首を振ってみせる。
「・・・いえ、何でもありません。お邪魔しましたね」
「ああ、いえいえ、とんでもない」
牡蠣殻は煙草の火を消して、それから不思議そうに、
「今日は随分と穏やかですね・・・」
と、立ち上がった鬼鮫を見上げた。
鬼鮫は口角を上げて肩をすくめた。
「治ったんじゃないですかね、性格が」
「はあ・・・」
「ここにいるのを見かけたときはどうしてくれようと思いましたが。何でしょうね、普通に話せましたねえ」
「それは良かった」
「そうですね。多分あなたが思っている以上に、良かったと思いますよ」
「え?」
「お互いの為にこの状態が続いてくれるといいですね」
「ああ、まあそれはそうですね」
「では失礼します。また後程」
念を押すように言うと、変な顔をした牡蠣殻を残して食堂に戻る。
"多分まだいると思いますが"
果たしてイタチは、まだ依頼書を眺めて考え込んでいた。 鬼鮫の気配に気付いて、近づく前から顔を上げる。
「どうした?」
散歩にしては早すぎる帰りに何かあったと思ったのか、警戒の色を浮かべて鬼鮫を見上げた。
「どうもしちゃいませんが・・・」
椅子を引いてイタチの向かいに座ると、依頼書を手にとった。
「見せて頂きますよ」
最初の頁をめくって内容に目を走らせながら、
「今回の護衛の意味を知りたいのですよ」
「意味?」
「追われているのか、狙われているのか、ひっそり隠れおおせたいのか、道中を無事やりすごしたいのか、奪われたくないものを持っているのか・・・・・」
依頼書の一文に目を留めて、鬼鮫はゆっくり言葉を継いだ。
「あるいは危険が伴う交渉を有利かつ安全にすませたいのか・・・」
「最後の意味合いが一番ぴったり来るな」
イタチは鬼鮫の目線にある部分を指でトンと弾いて、腕を組んだ。
「その危険な交渉に、何故傷をつけられないような特異体質の者を単独で差し向けるのか・・・」
「ひっかかりますねえ。おそらくはその体質こそが交渉の種なんでしょうが・・・」
「二日間は様子を見るなどと護衛を要している割りには悠長過ぎる。下手したらここにたどり着く前にどうにかされる事もある。着いたとしても、相手から接触して来ない限り、目の前で何かあっても俺たちは気付きもしない」
「体のいい捨駒ってとこですか。まあ相手が悪い」