第16章 八面六臂
「行くのかい、牡蠣殻」
カブトがフードの陰から含みのある声を洩らす。楽しげですらある様子の底が知れずに牡蠣殻は一歩退いた。
「早く薬を呑むがいいよ。持ってるんだろう?用心深い深水が君の主治医なんだからね。まあいいさ。こっちも君に死なれちゃ困る。今度は招待客つきの余興も含めて、ゆっくり君のその面白い体と付き合いたいね」
「・・・・・・・。厭な提案ですねえ・・・」
「君の血は実に興味深い。ねえ、牡蠣殻。人の命をこぼして奪う、その血の創り手で器でもある君は、もう間接的に百にも及ぶ人を殺しているんだ。知ってたかい?この先もまだまだ人を殺めるだろうね。そういう人間はこちら側にいる方が相応しいんじゃないかな。そう思うだろ?」
波平が出た。
「贅言を弄して人心に付け入ろうとは不快極まりない。耳目に穢れが出る。去になさい」
「贅言?事実だよ。いや、事実だからこそ不快になるんだろうな。そうだろ?飼い殺しの好きな浮輪さん?」
カブトは袖口からゾロリと細身のクナイを、両の手に四本、合わせて八本掴み出して構える。牡蠣殻の横で退屈そうに話を聞いていた飛段が、首を鳴らして緊張感なく口を挟んだ。
「ふうん。どっちだっていいような話だけどよ。牡蠣殻ジャシン教に入っちまやいいじゃん。俺みてェに死なねェ体になりゃいいよ。ジャシン様は喜ぶしよ、一挙両得じゃねえか。アレ?すげえ冴えてんな、俺」
「どれもこれもロクな提案じゃないな・・・波平?」
アスマがにやりと笑って、紅から肘で突かれる。
「流石の昼行燈も灯心が切れるか?」
波平は黙って首を振る。
「そもそも、何であなたがこんなとこにいるのかな?あなた、ここに居るような人じゃないよね?」
カカシが飛段をしげしげと見て首を捻る。飛段は懐手で血塗れの頬を撫で、
「あー、話せば長くなんだよなァ。メンドくせェしもう行かねェと。行き掛けの駄賃にコイツぶっ殺してってやるか?」
カブトに顎をしゃくった。
「簡単に言ってくれるね。しかし興味深い・・・」
カブトは飛段と牡蠣殻を見比べて呟いた。
「・・・そう、興味深い・・・本当に来ないか、牡蠣殻」
「凄い無理めな事サラッと言っちゃう辺り、飽くまで理系の小坊主なんだよね、君は」
カカシが困ったように肩をすくめた。
「危ないものを好んで振り回したがるのも止めとけ。そのうち自滅しちまうぞ、カブト」