第16章 八面六臂
燃え盛る藪を越えて、幾多りかの人影が向かって来る。
「・・・ちィ、くそ・・・ッ、捕まってろッ」
デイダラは杏可也に声をかけると片手で印を組んで造型粘土を低く飛ばした。空いた手で藻裾の腰をグイと捕まえて掬い上げると急上昇する。束ね髪をなびかせながら藻裾を傍らに座らせ、デイダラはフッと息を吐いた。
「アンタがチビで良かったぜ、うん」
「余計な真似すんじゃねえ!」
恩知らずな藻裾が目を三角にして食ってかかる。デイダラはムカッとして口をへの字にした。
「余計な真似したのはそっちだろうが!オイラの芸術的な見せ場をぶっ潰しやがって!」
「芸術じゃねえだろ、花火だろ」
「ば・・・ッ、花火じゃねえ!!爆発だ!!」
「危ねんだよ、火遊びすんなよ!」
「バカ、危なくていんだよ、殺られてえのか、テメエは!」
「身近でバンバンやられたらいつ巻き込まれるか気が気じゃないわ!」
「そこは気を付けろ、自分で。何せ芸術だからな、うん」
「なァんでアンタの芸術とやらにこっちの自己責任が問われちゃう訳ェ?甘えんな、ジブリ野郎。シータ食っちまうぞ、あん?」
「止めろ、バルス唱えっぞ、こら」
「唱えてんじゃん、何も起きねえじゃん。バッカバカすィ~」
「ジャンジャンうるせえぞ、黙れ!」
「・・・あン?何か聞いた事あるフレーズだな。しかもブーメランの気配だよ?何だっけ?気になるじゃん」
「・・・黙って気にしてろよ。静かでいいや、うん」
「何処へ向かわれるのですか?」
向かい風に細い髪をなぶらせながら、杏可也が穏やかにデイダラへ尋ねた。
デイダラはここで初めて杏可也をまともに見た。そうして、ポカンとした。
「・・・・アンタ・・・・・・綺麗だなあ・・・」
「あら・・・嬉しいですね。ありがとう」
何のけれん味もなく言うと、杏可也はふっと微笑を浮かべた。
瞬きするのも忘れてデイダラは杏可也に見惚れた。
「うん・・・・綺麗だ。・・・観音様みてェだ・・・・・」