第16章 八面六臂
デイダラは肝を冷やした。
襲いかかりたいのをじっと我慢して、見張りらしい男を数え、おさおさ手抜かりなきよう気を配りながら植え込みに息をひそめて忍んでいるところに、あのおかしなチビ女がおかしな奇声をあげて女二人を伴って二階の窓から文字通り飛び出してきたのだ。
「行っけえええェェェ!!!」
「おわッ!?」
思わず小さく叫んだ口をカパッと手で覆うも、散在して潜んでいた男達は飛んで出たチビ女達に反応して各々走り出した為に、誰もデイダラには気付かなかったようだ。
「ギャハハハハ、ちょ、牡蠣殻さーん、今、アタシ、時駆けしちゃってたよねー!上がるわーッ」
「・・・あンのバカ・・・」
バラバラと囲まれてもまだ大笑いが止まらない藻裾に、デイダラは堪りかねて飛び出した。
地を這う程前傾して男達の足下を走り、のほほんと佇む品の良い女にこれと見当をつけると足も止めずに拐うように横抱きして駆け抜ける。
「テメエは何やってンだ、このチビ!走れッ!」
すれ違い様に腕を引いて怒鳴り付けると、藻裾は二三歩よろめいたものの、すぐ体勢を立て直して走り出した。
「紅さん・・・ッ」
駆け流れる景色の中で置き去りになった紅に声をかけるも、
「行きなさいッ!」
突き放される。
「止まるなッ、杏可也さんを頼む!」
慌ただしい気配とクナイや太刀がぶつかり合う金属音が弾ける。
「おいごらこのバカッ!紅さんが・・・ッ」
「知るか!あの女のがアンタより強え。気にすんな、兎に角走れッ」
「ちくしょうッ、後で覚えてろこのタマナシ野郎ッ」
「うるせえ、テメエこそこの恩を忘れんじゃねえぞ、ああ、うん?」
「藻裾、知り合いの方?紹介してくれますか?」
「・・・あれ、何てったっけ?」
「・・・いいよ、そのまま忘れてろよ、うん」
デイダラは呆れた。
「磯は変なヤツばっかだ、うん・・・」
「やかましい。ヘボヤンに言われる筋合いはねぇわ・・・・ちくしょう、テメエの面見たら腹減り思い出しちまったじゃねえか!忘れてたのにッ、思い出したらッ、辛いだろッ、くそッ」
「・・・それでよく怒鳴れんな・・・化けモンだ、オメエ・・・うん・・・」
「儚げに切れ切れと喋ってンじゃねえぞ、杏可也さん落っことしたらそのマゲ引っこ抜くからな、ごらァ?」
「・・・やっぱオメエの方を置いてくんだったな、うん」