第16章 八面六臂
藻裾は舌打ちすると、紅と杏可也の腕をとった。
「行かせるか!」
カブトが叫んで再び赤い霧が噴き出した瞬間、藻裾は窓を蹴破って杏可也と紅共々空に躍り出た。
「行っけえええェェェッ!」
「汐田ッ、二階だぞ!杏可也さんを・・・ッ」
「心配ない、後を頼む!」
両腕で目を庇いながら再び吹き矢を受ける牡蠣殻の声に、紅の答えが飛んで返る。
「ギャハハハハ、ちょ、牡蠣殻さーん、今アタシ、時駆けしちゃってたよねー!上がるわーッ」
底の抜けた藻裾の叫びに続いて、杏可也の声が聞こえた。
「無理をしないで失せなさい。待っていますよ」
牡蠣殻が答える前に、カブトが笑った。
「フ。簡単に行かせるなんておめでたいことは考えてないよね?勿論外にも見張りの連中をつけてある。ほんの小さな刺し傷とは言え、君が怪我をした以上早く深水に薬を出させないと。本当は血が止まらない最愛の妻のために、深水が自ら現れるってシナリオだったんだよ。まあ二人は会ってすぐ一緒に死ぬ事になってたんだけどね。薬の事が解れば用はないからさ」
「テメエも大概ベラベラよく喋んなァ。大蛇丸に黙ってろって言われねえか?俺ァしょっちゅう言われるぜ、うるせえ黙れおまけに死んじまえってよ。まァ、そう言われても俺ァ死なねェんだけどね」
飛段がにやにやしながら茶々をいれた。カブトは袖口に手を潜らせて、クナイを取りだし目を細めた。
「少し大きな傷をつけて君が本当に死なないかこの場で試してみようか。わざわざそんな真似をしなくてもどうせ君たちはもうすぐ寝る事になっているんだけどね。針には眠り薬も塗っておいたから。どうせ君には最初から用はないんだ。少し楽しませて貰おうかな」
「牡蠣殻オメエ眠いか?」
飛段が首筋をボリボリ掻きながら牡蠣殻を見下ろした。牡蠣殻は首を捻って、それから振った。
「ふうん・・・効き目の遅え薬なんか仕掛けて、何か意味あんの?寝る前に逃げられたらバカみてェじゃねぇか。アンタもしかして凄えバカ?大蛇丸も変わったねえ。アイツバカはビックリするくれェ嫌いだったのになぁ。バカにバカって言うだけで腹が立つっつって、あ、ホントは好きなのか、バカが。嫌い嫌いも好きのうちかぁ?何せバカを腰巾着にしちゃってるモンなァ。なあカバト」
「ぶっ」
牡蠣殻が噴くのを横目にカブトは苛立った表情を浮かべる。