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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第16章 八面六臂


カブトは眼鏡を指先で押し上げて、にやりと笑った。
「強気なのは助っ人がいるからかな。造形のおかしな見るに耐えない大きな鳥を見かけたんだけどね。自称芸術家と干柿さんは何処だい?」
手で合図して四人を囲む陣を狭め、カブトは首を傾げてみせる。
「早く現れないと余興に間に合わないよ?今日は是非とも干柿さんの顔が見たいんだけどねえ?」
「干柿さんはいませんよ」
余裕を見せるカブトに牡蠣殻は眉をひそめる。奥の手でもあるのだろうが、何故愉快そうなのか解らない。
「そう。それは残念。折角の余興なのにな」
満更口だけでもないように呟いたカブトがスッと身を屈める。間髪置かず、蔭になっていた背後の一人が吹き矢を吹いた。
霧のように細かな針がブワと降りかかって来る。この霧は赤い。
牡蠣殻はギクリと目をすがめた。何故右に陣が片寄ったのかがわかった。
「退いて下さい!」
短く告げると覆うように杏可也ら三人の前に出た。数多の小さな痛みが突き刺さる。周りを見たいが目を開けられない。
"覆いきれないか!?"
いや。
「何だ、痛ェってより痒ィよ、こりゃ。なあ、牡蠣殻ァ」
傍らに飛段がいた。
牡蠣殻と同じく、後ろの三人を覆うように手を広げて笑っている。刺さった針を払いながら、振り返って声をかける。
「よォ、蚊にゃ刺されなかったか?」
「・・・お前は・・・!」
紅が驚いて飛段を見返した。その顔がみるみる険しくなる。飛段は口角を上げた。
「邪魔しに来たんじゃねえから安心しろよ。俺ァ今仕事中。で?アンタら平気な訳?」
紅が杏可也を見、杏可也が藻裾を見、藻裾は紅を見た。
「大丈夫だ」
紅が固い声で答えると、飛段は目にかかる血を拭ってカブトを見据えながら、
「怪我する前にさっさと逃げろ。死ぬぞ」
「汐田さん、二人と先に逃げなさい。吹き矢に恐らく私の血が塗布されていたと思われます。ここから離れて下さい」
飛段同様血を流しながら針を払い、牡蠣殻が口早で言うのに、藻裾が一歩踏み出した。
「先行けったって何が何だか・・・それよりアンタら、薬を・・・」
「薬を持っているのか」
カブトがすかさず反応する。牡蠣殻は一瞥をくれて首を振った。
「最後の一包を飲んで来ました。私は泣き腫らしても薬がいる身なのでね」
「面白ェ姉ちゃん、外でデイダラが待ってっから。兎に角行きな」
「・・・あのツビか」

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