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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第16章 八面六臂


気持ち右へ寄るように展開しているのは、藻裾の方が手強いと見てか。
「お知り合いなのですね、杏可也さん?」
敵から目を離さず尋ねた紅に杏可也は緊張を感じさせない様子で頷く。
「二人とも磯の者です。雲散鳥没無影無踪、山椒は小粒でピリリと辛い。貴女達のようには強くありませんが、頼りになりますよ」
杏可也の言葉に藻裾はニヤリとして紅を横目で見た。
「アタシは藻裾、あっちは牡蠣殻。アンタ知ってますよ。紅さんだよね。ビッとした美人さんで目立つから一発で覚えちゃったね。ちっとビッとし過ぎで、いまいち萌えねえのが残念」
全く常と変わらぬ藻裾を可笑しそうに笑って、牡蠣殻が杏可也に添った。
「牡蠣殻と申します。初見から不躾にすいませんでしたね。場合が場合なのでご無礼容赦仕ります。杏可也さん。先生のところへお連れします」
「それは困るな。その人はボクが先に迎えに来たんだ」
五人の影からフードを目深く被ったカブトが現れた。
"・・・薬師カブト・・・出張って来たか・・"
紅は眉をひそめた。カブト自身が現れるとは。カブトは杏可也と牡蠣殻を見比べて含み笑った。
「しかし牡蠣殻、君がいるとは好都合。一緒に来て貰おうか」
「・・・・どちら様?」
牡蠣殻の一言に、辺りがしんとなる。
「・・・ぷ。だっさ・・・」
藻裾が小さく呟くと、敵方の五人が斜め下を向いて肩を震わせた。
カブトはフードをガバとはいで牡蠣殻を睨みつけた。
「前に一度会っただろ。一年前、出先から磯へ戻る途中で、深水が君から採血するのに立ち会ったのを覚えてないのか」
「・・・そうですか。成る程・・・。やあ、お久し振りです。息災そうで何より・・・ですよね?」
「・・・・覚えてないんだね?」
「いやいや、私、人を覚えるのに時のかかる質でして、この厄介な食手が動かぬうちはメモリーが機能しないのです。申し訳ない」
「フフ、磯辺さん、あなたもう少し周りに興味を持たないといけませんよ?一応ね」
「・・・君たち二人とは後でちょっとゆっくり話し合う必要があるようだね」
「重ね重ね失礼致しますが、貴方と後程の機会を持つつもりはないのですよ。殊に先生と杏可也さんには手出し無用。叶うならお帰り願いたい」
「ハハハ、君は確かに深水さんの教え子だ。その慇懃無礼な言い回し、よく似てるよ」


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