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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第16章 八面六臂


紅は片腕を伸ばして杏可也を背後に、姿勢低く構えた。
「はああアァァァあァァい、どっこいしょおオオオォォォッとオォッ!!!!」
どかんと派手な音がして、ドアの残りが再び吹き飛び、小柄な人影が木っ端と賑やかな怒声と共に飛び込んできた。
「ぐわ・・・ッ」
「ギャハハハハッ、お邪魔しちゃいますよオォ!!!」
けたたましい笑い声がしたかと思うと、男が一人蹴り倒され、人影は猿のように機敏に着地した。
「・・・・・ッ」
動揺した紅は、杏可也共々思わず一歩退く。そこへ左手側に構えていた男がクナイを放った。クナイは下から掬い上げるような線を描いて紅の喉元へ飛び付く。
弾こうとしたものの、杏可也を庇って伸ばしていた手の反応が一瞬遅れた。
"くそ・・・ッ"
避けきれないのはわかっていたが咄嗟に顎を背ける。その刹那、空気が動くのを感じた。
乾いた紙と煙草の匂いが鼻に届く。
"・・・アスマ?"
次の瞬間、ガツッと固い音がして顎に衝撃が走った。しかし、裂き傷の鋭い痛みはない。
「危ない危ない。部屋の中で何てものを投げてるんですか、物騒な」
呑気ともとれる非難の声に目を走らせると、眼鏡の女が分厚い文庫本からクナイを抜き取るところだった。
「ひどいことしますねえ・・・本は大事にしましょうよ。美しく保たずとも何度も読み返せるように、せめて文字を潰すような扱いは止めて頂きたい・・・あー、ひどいな・・・」
どうやらこの女が本でクナイを遮ったらしい。一体何処から現れたのか、紅と杏可也の左手に立って情けなさそうに本を腰のカバンに入れる。
「だぁら何か得物持てっつってんですよォ?平和主義者気取っちゃってんの?死んじゃいますよォ?」
先に飛び込んできた小柄な女がズイと右手に陣取って呆れ顔をした。
「下手なモノ扱って自損したらそれこそ死んじゃいますからねえ・・・杏可也さん、お怪我はありませんか?」
「まあ、磯辺さん、紅さんがいて下さりましたからね、大事ありません。それより貴女、波平が探していましたよ」
「毛が一本のハゲチャビンなら呑みスよ。杏可也様ァ、甘やかしちゃ駄目です。最後の毛一本までむしってやんねえとォ。福利厚生もなってねえしなァ」
「あら、波平のハゲを知ってたの?フフ、流石、目敏いわ、裳裾」
蹴り倒された男が戻って、ゾロリと陣列が動いた。
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