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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第16章 八面六臂


「フフ、杏可也さんお団子お好きですものね」
「そうなの。お団子の取り合いで波平の頭に串を刺してしまったこともあったわ。波平ったらあの通りのコでしょう?痛がってるんだか何だか解らないものだから、ついやり過ぎてしまってはお父様に怒られました。懐かしいわねえ・・・」
「・・・頭に串・・・」
「まだ残ってるかしら、あの小さいハゲ・・・」
「・・・ハゲ・・・」
「機会があったら見てご覧なさい。後頭部に三つ、ツルツルしたところがあるから。子供ながらに脛椎を狙って外してしまったのね。今思うと、本当に外れて良かった・・・」
「・・・脛椎・・・」
「お団子の串も武器になるのですね。人生万事塞翁が馬、何事も油断せずに気を付けなければ・・・」
「・・・杏可也さん、何か違う・・・」
紅は眉間に指を立てて心持ち首を垂れた。
「・・・お子さまが出来ても相変わらずで、安心し・・・安心・・・」
「あら、誰かいらした様ですよ」
おっとりと言われて紅はフッと身構えた。誰かがドアを叩いて訪いを告げている。
「杏可也さんはここに」
「お邪魔ではないかしら」
「訪ねて来た者が邪魔者でなければいいのですが」
立ち上がりかけた杏可也を優しく止めて、紅は玄関ドアに向かった。スコープを覗き込むと、見覚えのある女がいた。昨今近所に越してきた大人しげな女だ。
"・・・何の用だ?"
「どうかしましたか?」
ドア横の壁に体を着け、警戒した態勢で声をかける。
一拍の間があって、ドアが吹き飛んだ。
「・・・チッ」
紅は大きく飛び退いて杏可也を庇う格好で構えた。
女が糸の切れた人形の様に倒れ込み、背後の闇から黒い覆面姿の男が五人、わらわらと湧き出す。
「何者だ、とは聞かないよ。痛い目に遭いたくなければ立ち去りなさい」
素早く状況に目を配りつつ、紅は強く言い放った。
「随分と乱暴なお客様なのですね?お知り合いなの?紅さん?」
「まさか。杏可也さん、隣の部屋へ・・・」
含み笑いの気配を覆面の下から漂わせる男たちに、紅は内心舌打ちする。
"まさかこの人数で堂々と襲ってくるとは・・・アスマを行かせるべきじゃなかったな"
自分一人ならいい。しかし、身重の杏可也が側にいるとなると話は別だ。
男達は二人を囲むように左右に陣を広げた。



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