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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第16章 八面六臂


嫋やか。
そう、嫋やかだ。杏可也は見るものに、嫋やかな印象を与える。猛々しいところが一つもない、白く柔らかく滑らかな玉。真珠のような女性。
紅は穏やかな表情でお茶を呑む杏可也の、その手に見惚れた。握り締めたら溜め息が出そうな柔らかい、滑らかな手。
「本当にありがとう、紅さん」
声もしんなりと優しい。
弟の波平に似た半眼は、杏可也に備わると白木から彫り出した観音像に似た優しさと穏やかさを見せる。
「面倒な事に巻き込んでしまって申し訳ないと思っています。旦那様から報せが戻り次第ここを出ますからね。もう少し辛抱して頂戴?」
紅はハッとして笑顔を浮かべた。
「面倒だなんてとんでもない。そんな事は気にしないで下さい」
以前は砂漠の珠と呼ばれた事もある杏可也は、一度は砂の里に嫁いだ出戻りだ。
波平を木の葉のアカデミーに入れた様に、三代目磯影は長女杏可也の見聞をも広めさせようと年若い彼女をもう一つの大国、砂に赴かせた。
そこで杏可也は求婚され、砂の里に身を置くことになったのだ。
相手の名は阿修理。名の通り、物を造り上げ、修する腕に優れた穏やかな男だった。
父破波と婚約の報告に波平を訪ねた杏可也を紅も、アスマたちも覚えていた。
美人とは言いがたい。しかし、ただひたすら曲線で容どられた、柔らかげな少女は美しかった。
当時は杏可也と波平が磯影の嫡子とは知らなかった。そもそも磯という里をよく知らず、真面目そうな顔で授業から逃げ回り、その癖そこそこの成績を取り続ける波平を煙たく思っていたので、二人が来たときもいささか意地の悪い気持ちが湧いたくらいのものだ。あの怠け者の父と姉の顔を見てやれ、と。
「ふう。お腹に赤ちゃんが入るというのは、なかなか面白いものですね」
少し目立ち始めたお腹をさすって、杏可也はプウッと息を吐いた。
「お茶を呑むだけでお腹が膨れたような気持ちになるのですよ。フフ、私は食いしん坊だからちょっと損したような味気ない気がするときもあるの。折角木の葉にお邪魔させて頂いているのに、まだお団子も食べていないのよ?」
「またいらしたときに、沢山食べて下さいな。そのときはお子さまも一緒かもしれませんね」
「そうですねえ・・・」
紅をにこにこと見ながら杏可也はなだらかな頬に手を当てる。
「私がお子とお団子の取り合いをしても、笑わないでね、紅さん」

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