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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第15章 牡蠣殻の飼う血


そのままでいいとは甘やかしかと言った牡蠣殻を思い浮かべる。
あのとき答えたように、そのままでいい人間などいないと鬼鮫は知っている。
そのままでいられる人間もいない。削られ、膨らみ、また削られて皆其々を形作って行くのだ。傷つき、癒され、また傷つく、その繰り返しが人を変えていく。辿り着く先がどういうものであろうと、生きている限りそうした変化は止まる筈もない。
「放任と過保護ですか」
深水は砂を噛んだような表情を浮かべて心持ち頭を垂れた。鬼鮫はそれをじっと見ながら話を続ける。
「もしくはハナから磯を潰す気でいるのか。磯影が先を見ているかどうかは兎も角、あなたの里抜けは許されるでしょうよ。あくまで私の予想ではありますがね」
「何故そう思われる」
深水のすがるような視線を煩わしげに手を振って遮り、鬼鮫は言い捨てた。
「知りませんよ。ただそう思うだけです。磯影にはそういう印象がつきまとう」
生真面目な深水に懸念を募らせる事、牡蠣殻への扱い、一年前の取り引きのお粗末な顛末。
「磯に期待するのは諦めて、大切な研究結果は私に渡す事ですね。私はあの人を失血死させるつもりも一人で呑気に死なせるつもりもありませんよ。とは言え、それもあなた次第ですが、否やを言わせるつもりはない事をお忘れなく。よしんば生き長らえさせるのに有用な知識が手に入らなくとも、私はあの女の生殺与奪の権利を握って離しませんよ。教え子を可哀想に思うなら、私の言う通りにするのですね」
「・・・生殺与奪・・・・また凄い事を仰いますな・・・。一体何をやらかしてうちの教え子はそういう羽目になったのです・・・?」
「さあ。強いて言えば、初めて会ったとき私に気付かなかったせいですかね。目を合わせすらしなかった。こっちは一目で殴り倒したい衝動に駆られたというのに、本から顔も上げない。腹が立ちますねえ」
「・・・・ほお・・・」
「何なんですかね、あの人間違いなくB型ですね。空気は読めないは勝手気儘だは、全く迷惑な」
「・・・干柿さんは何型ですかな?因みに私はBですが」
「ああ、それは失礼。気を悪くなさいましたか?しかし成る程、あなたBですか。ふ。いや、笑ってませんよ。ええ。私はAB型です」
「AB型!何と、言葉は悪いが世に紙一重と言われるかの不可思議型と仰る?いやいや、左様ですか。AB型ですか。干柿さんらしい」
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