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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第15章 牡蠣殻の飼う血


「さても面倒なお荷物ですが、あなた、それを背負い込んだまま奥さんと逃げるつもりですか。牡蠣殻さんに関するモノは投げ出して行った方がいいと思いますがねえ。あなたが苦労して調べあげたものだ。惜しむ気持ちも解りますが、身重の奥さんには少々荷が勝ちすぎな道行きになると思いますよ?お気の毒に」
鬼鮫は皮肉げに言って深水を見据えた。深水は鬼鮫を見返して溜め息を吐く。
「持って行くつもりなどありませぬよ。ただその荷物の行き先を考えているだけの事」
「簡単な事ですよ。欲しがっている者に与えればいい」
鬼鮫は事も無げに言って、口角を上げた。深水は鬼鮫をじっと見て、また溜め息を吐く。
「何故そうも欲しがられるのか、私を納得させて頂きたい。何をどう為さるおつもりか」
「それを知ってどうするんです?納得の行く答えを出したとしても、あなたは渡したがらないでしょう、私には」
「そうですな。難しいでしょう」
即答した深水に鬼鮫は苦笑した。
「隠し事はするようですが、あなたはやっぱり正直だ」
「はは。嘘を吐くだけの能がないのでしょう。ただ正直でだけあるのは、時として愚かでもある」
「まあ、正直に越したことはないんじゃないですか?普通に生きていく分には」
他人事のような素っ気なさに、今度は深水が苦笑する。
「あなたは普通ではない?」
「さあ、どうでしょうね」
月灯りで薄明かるい窓の外を眺めながら、鬼鮫はまた素っ気なく答えた。
「普通であるかどうかは、私にとってさしたる問題じゃありませんからねえ。どちらでもいい事です」
「ふむ・・・」
「牡蠣殻さん泣いてましたよ」
「は?」
変わらぬトーンで話題を変えられ、深水は宙ぶらりんの顔になった。
「泣いていた?」
「ええ、泣いてましたよ」
「はあ、また厠か物置に籠りましたか」
深水は可笑しそうに肩を揺らした。
「磯辺はあれで感情の起伏が激しいところがありましてな。泣くといってもすぐにケロリとするので、泣いたカラスがもう笑うというヤツですか。あれは自分でも抑えきれぬのでしょうな。媼になっても変わりますまい。お気になさらぬ事だ」
「人騒がせな」
「騒がされたのですか」
「騒いだのは私じゃありません。牡蠣殻さんですよ」
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