第2章 遂行しづらい任務
「護衛を受ける当人はこの宿にいる。俺たちの情報は伝えられているらしいが、当人がよしとするまで接触は出来ない。こっちは誰が護衛相手なのかわからないから・・・」
「よしとするまでって、いつまでここで足留めされるんですか?」
うんざりと尋ねる鬼鮫に、イタチは真顔で答える。
「二日間、品行を問われる。行儀よくする事だな」
「・・・手遅れかもしれませんねえ・・・」
「そうでない事を祈る。早くに依頼書を見ていれば良かったのだが・・・」
昨夜考え事をし過ぎてしくじったのを、どう伝えようか思いあぐねるイタチに、鬼鮫は手を振った。
「・・・もう結構ですよ。何考えてるんですかね?うちのリーダーは」
「・・・・・・」
「まあいいです、わかりましたよ。今更ただ帰るのも業腹ですしね。二日間大人しくしていればいいんでしょう」
鬼鮫は足を組んで斜めに座った椅子の背もたれに片肘をかけ、もう片手でお茶を口元に寄せながら投げやりに肩をすくめた。
「・・・妙な依頼だが・・・」
依頼書に見入っていたイタチは、ぽつりと呟いて目を上げた。
「任務に変わりはない。気を抜くな、鬼鮫」
鬼鮫は苦い顔で口角を上げた。
「わかってますよ」
昨晩の事を言われている。イタチに気付きもせずに牡蠣殻と言い合いをし続けるという、有り得べからぬ失態。
馬鹿と間抜けにつける薬はないが、恐ろしい事にあれらの業は人を引っ張って巻き込んで行く。
"・・・矢張り殺しておきますか、あの馬鹿貝・・・"
"いや、それでは騒ぎになりますね・・・依頼が潰れる・・・・"
"まあ、何発か殴り付けたせいか、あれからゆっくり眠れましたしね・・・"
"それにしても下らない依頼ですよ・・・護衛される立場で何を選り好みますかね・・・・"
鬼鮫はいささか温くなったお茶を飲み干し、湯飲みを卓にカツンと伏せた。
「依頼人の意志がはっきりするまでは、自由時間という事になりますかね?ならば私は散歩でもしてきますよ?」
「散歩?」
「何か?私だって鮫肌を手入れする以外の能くらいもってますよ」
イタチは無言で立ち上がった鬼鮫を見上げると、頷いて依頼書に目を戻した。
「気をつけて行け」
「ええ、色々と、ですね」
皮肉に笑って、鬼鮫は食堂を出た。