第13章 干柿と牡蠣殻
「安いのはあなたでしょう。自分から恩師に噛み付いておきながら拒絶されたと見るや逃げ出して泣き出すなんて、よくもまあそんな恥ずかしい真似をするもんですね」
「だからと言って殴られる謂れはありません。そもそもほっとけって言ってるじゃないですか。それをわざわざ構いつけて、安い相手に安い真似してんじゃないですよ」
「ふ、なかなか言うじゃないですか。罵られるだけのぼんくらじゃなくて安心しましたよ」
鬼鮫は牡蠣殻から手を離してデイダラの寝台に腰掛けた。
「しかしあなた、深水さんに頼り磯影に頼りであんまり情けない。もう少し自分の足でちゃんと立ちなさい。ふらふらいつ死んでもいいような真似をして心配をかけるのは甘えている証拠です。その様で構うなと人を突っぱねたところで、それは虚勢にしかなりません」
「・・・甘えてましたか?私?」
「心配をかけて平気でいるのは甘えだと思いますよ」
「・・・・・」
「心配しなくていい、放っておいて欲しいと思うのもまた甘えです。周りの事を考えていない。自分というものをわきまえて、周りを慮るのが大人ですよ」
「迷惑をかけているのはよくわかりますが、心配・・・」
「・・・・あなた本当に幼稚ですねえ。誰も自分の事など考えていないと卑下するのは勝手ですよ。一人で好きに僻んでなさい。しかしそれを周りに見せないのが嗜みです。芯から立派になるのは無理でも、せめて人に気を使わせるような振る舞いを控えるくらいの心配りを持ちなさい」
「成る程・・・先生が常日頃目配り気配りが足りないと言っていたのは、そういう事なのですね」
牡蠣殻は目やら鼻の下やら両の頬やら、顔中真っ赤な状態で頷いた。それを見た鬼鮫は思わず噴きそうになったが、口を拭って堪えた。
「そうか・・・それではそのままでいいと言うのは桁外れの甘やかし・・・」
「桁外れというより見当違いですよ。どういう点において言ったかにも依るでしょうが、そもそもそのままでいい人間なんている訳ないでしょう。そういう無責任で安直な事を言う人が、何でも真に受ける間抜けの身近にいるのは問題ですよ」
唾棄しかねない様子で言い捨てて、牡蠣殻をじろりと睨みつけた。
「誰にそんな馬鹿なことを吹き込まれたんです」
「誰だっけな・・・覚えてません」
読めない半眼が浮かんだが黙っていた。何を言われるかわかったものではない。