第11章 飛び出る災難
「たんと笑って下さい、先生。杏可也さんが喜びますよ。また惚気けられますねえ」
"こんな事でこんな笑い顔を見せてくれるか・・・"
「そうか。杏可也が喜ぶのであれば私も嬉しい」
感慨深く思いつつ臆面もなく言うと、深水は帯に手を添えた。固いものが触れる。
「牡蠣殻」
「はい」
「・・・お前・・」
口を開きかけたとき、ドアを叩く訪いの音がした。
「どちら様でしょう」
牡蠣殻が立って行って開けると、イタチと鬼鮫と、デイダラが現れた。
「護衛の件で具体的な打ち合わせがしたい。深水さん、いいだろうか」
そう言って深水に歩み寄るイタチの後ろで、鬼鮫が呆れて牡蠣殻を見下ろす。
「・・・牡蠣殻さん、あなた人の部屋にいて我が物顔ですねえ。何がどちら様ですか、肝の太い」
「いやいや、我が物顔だなんてそんな。何だか反ってすみませんね、丁寧に迎えたりして。つい習慣で答えてしまっただけで、私実際はこの部屋に誰が好き勝手に出入りして何を家探ししようと、全く毛頭構いませんよ?安心して下さい」
「・・・成る程。留守を守るという人生のかなり初期に負わされるごく些細な責務においてすら、あなたは全く役に立たないという事ですね。わかりました」
「肝に命じて下さいね。くれぐれも当てにしないように」
「ハナから何かであなたを当てにしようなんて頭は全く持ってませんからご心配なく」
「あら、心丈夫なご発言。干柿さんは諦めと呑み込みの早い効率的な人生を歩んでらっしゃるんですねえ。ご立派です」
「ホンット人をイラッとさせるのが上手ですねえ、あなた」
「ヤですよ、干柿さん、そんな事ありませんて」
「・・・何で微妙に誉められちゃったみたいな顔してるんですか。ちゃんと人の話聞いてるんですか、あなたは」
「失礼な。三割がたは聞いてますよ」
「七割も聞いてないんですか!決壊しっぱなしのダムみたいな頭してるんですね・・・思ったより事態は深刻ですよ?わかってますか?大事な情報を鉄砲水みたいな勢いで駄々漏らしてたら早晩頭の機能が停止しますよ?些細なものでも使わないより使った方がまだマシです。与えられたギリギリの資源を大切にしなさい」
「ならそのギリギリの資源が詰まった頭をよってたかってポンポンポンポン叩くのは止めて下さいよ。脳ミソが流動物になったらどうしてくれます」
「もうなってるんじゃないですか?かなり初期の段階で」