第6章 先生と生徒
「んー…結構遊んだなぁ〜…」
五十嵐君はぐーっと伸びをしながらそう呟いた。
私達は屋台制覇を目指して金魚すくいに射的、食べ物の屋台に至るまで全てを遊び尽くした。
「お祭りの屋台って意外と種類があるんだね、知らなかったよ」
「俺も今まで意識した事なかったけど案外色々あって楽しいよね」
屋台の並ぶ道から少し外れたベンチへ腰を下ろすと一気に疲れが出てくる。
「九条、疲れてない?何か飲み物買ってこようか?」
「ううん、大丈夫だよ」
パタパタと手で顔を仰いでいる五十嵐君はふぅと息を吐いた。
「今日は九条と一緒に屋台まわれて良かった。俺1人だったら多分、帰ってたから」
「え?」
突然の言葉に顔を見ると五十嵐君は遠くを見つめているようだった。
その目に映る光とは対照的に五十嵐君の顔は曇っている。
「隼人も彩葉も昔から勝手ばっかでさ、今日もアイツ等単独行動で…俺来た意味ないじゃーんってね」
へへっと自嘲気味に笑う顔はいつものように少し寂し気で何と声を掛けたらいいのか分からない。
「五十嵐君は…2人が……彩葉ちゃんが好きなんですか?」
本当なら何かもっと慰めるような言葉だったら良かったのに、私の口から漏れたのは単刀直入な無慈悲な言葉だった。
「直球だね……」
「ご、ごめんなさい…」
案の定、五十嵐君は固まった笑顔を返す。
「でも、九条の言ってる事は正しいよ。昔から好きだったんだ、彩葉の事」
「伝えないんですか?」
思わずそう尋ねると五十嵐君は首を振る。
「出来ないよ、俺は隼人も彩葉もどっちも大事。10年も付き合ってれば2人が両想いなのも今更だし、俺が変にかき乱す様な事じゃないって」
いつも寂しそうな顔の答えはそこにあって、五十嵐君はいつも2人を見守っていた。
大事な幼馴染として、大事な初恋の女の子として。
そうやって彩葉ちゃんを見守ってきた。
そうやって友永君の背中を押してきた。
それが分かってしまった今、私に言える事は何もなかった。
「でも、俺も何もしなかった訳じゃないんだ。それとなくアプローチもしたし、やれるギリギリまで攻めて、それでも全然ダメだった。俺は隼人には勝てない」
「五十嵐君…」
遠くを見つめる彼の目には何が映るのだろうか。
懐かしむ様な目にはあの2人が映るのだろうか。