第7章 二人きりの夜

それからどれ位時間が経っただろうか。

泣いていた先生を落ち着かせてもう一度布団に戻して、冷め切ってしまったお粥を温め直して。

気が付いた時には深夜を過ぎていた。

コンコン

「はい」

ノックの後、短い返事が返ってきた。

私がお粥を温め直している間に目を覚ましたのだろうか。

「お粥、持って来ました」

そう言って室内に足を踏み入れると半身を布団から起こした先生と目が合った。

良かった、さっきよりも顔色が良くなってる。

「ごめんな、生徒にこんな事させて」

先生は申し訳なさそうに言うと情けなさ気に笑う。

「いえ、いいですよ。どうせ外は荒れてますから」

お粥の乗ったお盆を手渡すが先生は食欲が無いのか一向に食べようとしない。

「まだ食べられそうにないですか？」

そう声を掛けると先生は慌てたように首を振る。

「いや、そうじゃないんだけどさ。俺、さっき君に何かしなかったかな…？」

してないといいんだけど、と付け足して先生は俯く。

「あ…えっと、泣いてた事…ですか？」

恐る恐る問い掛けると先生はバツが悪そうに顔を逸らす。

その顔は心なしか赤いように見える。

「〜〜〜。やっぱり…何か記憶がぼんやりしてたから、そうかもって思ったんだけど情けねーな俺…」

ガックリと肩を落とす姿は普段の先生とは違って少し幼い。

熱で少しいつもの余裕が無いのかもしれない。

「や、あの！別に大丈夫ですよ！ほんの数分でしたし」
「…本当に？」
「………数十分かも」

ジト目で見られると嘘を付けない。

「生徒相手に何やってんだよ俺……」

この様子だと間違っても"抱き締められました"なんて言えない。

「他に何もされなかった？何か言ってたり…」

案の定先生は安心出来なかったのかそんな質問をしてきた。

「だ、大丈夫なんじゃないですか？」
「うわー、俺まだ何かやったのかよ…！」

もう無理、誤魔化しきれない…！

「な、何で分かるんですか！？」

諦めた私は逆に質問をしていた。

「いや、君は結構分かりやすいよ？それより俺、何やらかしたの！？」

あまりにも切羽詰まった様子にもうどうしようもなかった。

「……抱き締められました」