第6章 先生と生徒
「さて、何をしようかね〜?」
そう言って楽しそうに腕まくりをした。
「はいはーい!俺カキ氷食いたい!」
「お!隼人もたまにはいい事言うね〜!おし!探しに行くわよ!」
2人はそう言って走り出してしまった。
「2人ともあんま遠く行くなよー!」
五十嵐君がそう叫ぶも2人の耳には届いてないような…
「これは、もう合流は無理そうだな」
「そうだね」
私達は人混みに消えて行った2人に溜息を吐きつつ笑うのだった。
2人には後でメールをするという事で話は落ち着いた。
「九条は何かやりたい事ないの?」
「私?」
五十嵐君は何でもいいよ、と言って屋台を見回す。
いつまでも道の真ん中で立っている訳にもいかない。
それに、せっかく来たのだから楽しまないと勿体無い気もするのだが…
「うーん…でも私、お祭り来たの初めてだから何したらいいのか分かんないや」
「マジで!?あ、でもそっか…九条はお嬢様なんだっけ」
思い出したように言うと五十嵐君は暫く黙り込んでしまった。
「よし、じゃあ今日は全部やろう!」
そして唐突に顔を上げると満面の笑みでそう言った。
「ぜ、全部!?」
「うん、だって初めて来たんだろ?だったら何が楽しいか全部やっちゃおうよ」
五十嵐君は不敵に笑うと私の手を引いて歩き出した。
「!!」
突然の行動に驚きつつも私は黙って付いて行く。
嫌とは思わない。
でも、同世代の男の子に手を引かれる事なんてなかったからどんな顔をすればいいのか分からない。
キラキラ輝いて見える屋台の光。
反射するように輝く五十嵐君の横顔。
繋いだ手はお祭りの熱気で少しだけ熱く感じる。
でも、どうしてだろう。
どうして私は今、先生に手を引かれた事を思い出しているんだろう。
先生の手は少し骨ばっていてゴツゴツして少し強引に私の手を引くけど温かくて…
五十嵐君の手は熱くて私の手を優しく引いている。
どうして私は…
2人の手を比べているんだろう。
私は先生の事をどう思っているんだろう。
どうして今、五十嵐君といるのに思い出すのは先生ばかりなんだろう。
どうして…