第2章 始まりの春
「はぁっ…はぁっ……」
初日からツイてない。
ある程度走ったところで私は息が苦しくなり、その場に座り込んでしまった。
生まれつき喘息持ちのお陰で走る事はあまり得意とは言えない。
「はぁ……」
少し落ち着いてきた私はため息を漏らした。
私の父親は有名資産家の1人である。
多額の寄付金と言うのは私が高校生活を不自由なく送れるように、と学校に寄付したもの。
つまり私はいわゆる"超お金持ち"という風に周りから見られるということ。
実際間違ってはいないけど、私としてはそういう風に見てほしくはない。
『アンタなんてお金持ちじゃなかったら良い所なんて1個もないくせに!』
ふと、脳裏に子供の頃の情景が浮かぶ。
家のネームバリューのみで判断されてきた私にとって、この"金持ち"というイメージは憎くて仕方ないものなのだ。
「戻らないと…」
通学路から逸れてしまった私は時計を見て呟いた。
入学式に遅刻する訳にはいかない。
立ち上がろうと腰を上げかけたところでグラリと視界が揺れる。
全速力で走ったせいで酸欠状態になってしまったようだ。
ドサッ
倒れる、そう思った私を誰かの腕が支えた。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると見知らぬ男性の困ったような笑顔が私の目に入った。