第2章 始まりの春
暖かな日差しと咲き誇る桜の花は春を思い出させる。
事実、今は春なのだが私が思い出すのは去年やそれ以上前の春。
毎年同じ季節が巡ってくるがいつだって同じ時間は流れない。
私、九条唯はこの春から高校生となる。
周りの生徒達と同じ制服に身を包み、長い黒髪を耳の後ろ辺りで二つに結ぶ姿はまだまだ中学生に高校の制服を着せた様に見える。
多分、子供っぽい顔立ちとお世辞にも高いとは言えない身長のせいでもあるけど…。
とにかく、私は今日から高校生になるんだ。
新たな生活に期待に胸を膨らませ通学路を歩いて行くと、ふと近くを歩く女子生徒の話し声が聞こえた。
「ねぇ、あの子って九条さんじゃない?」
あっ…。
ドクンと心臓が跳ねる音がした。
「ホントだ!うわぁ〜本物じゃん!」
人が人を呼び段々と私の周りに人垣が出来始める。
「ねぇ、あの話って本当かな?」
「話って?」
女子生徒の言葉に男子生徒が首を傾げる。
「ウチの学校に超多額の寄付金払ってるって!」
「マジかよ!?」
生徒達の視線に耐えられなくなった私はその場から走り出した。