第6章 先生と生徒
「学校に加えアパートも一緒となれば顔合わす機会も多いしな」
何の偶然なのか俺と九条は先生と生徒で、ご近所さんでもある。
蓮はつまらなさそうに俺の話を聞きながら皿に手を伸ばした。
「でもさ〜珍しいよね、拓也ちゃんが1人の女の子気にかけるのって…ん、これめっちゃ美味しいわ」
「摘み食いは程々にしてくれよ、無くなっちまう。…別に何かあの子ほっとけないってか危なっかしいだけ」
揚げたての唐揚げを更に皿の上へのせれば再び蓮が手を伸ばしてきた。
「ま、今まであーいう子あんま拓也ちゃんの周りにいなかったもんね。いや、他にも1人いたか」
そう言うと蓮は口にポイッと唐揚げを放り込んでわざとらしく笑う。
「何が言いたいんだ…?」
蓮の言い方にイラつき、振り返ると蓮は楽しそうに笑っていた。
昔からコイツは俺を怒らせるのが上手い。
「拓也ちゃんは女子高生たぶらかせる為に教師になったんだっけなーってね?」
俺は黙って箸を置くと蓮の胸ぐらを掴む。
「これ以上言うと、いくら蓮でも容赦しないぞ」
睨み付けても蓮は平然としている。
「怒るのは肯定?それとも自覚アリ?」
「だとしても蓮には関係ないだろ」
蓮は目を細めると俺の顔をじっくりと見つめる。
「拓也ちゃんが誰をどうしようがボクには関係ない。でもね、ボクは昔っから拓也ちゃんが大嫌いなんだよね。お前だけ幸せになれるなんて思うなよ」
蓮はそう言うとポケットから1枚の写真を取り出して俺に押し付けた。
「ボクは拓也ちゃんの事、一生許さないからね」
そう言うと蓮は自室へと戻ってしまった。
取り残された俺は再び唐揚げを揚げ始める。
料理は昔から好きだった。
だから、上手くなったのは特別な事じゃない。
九条は俺のクラスの生徒だ。
だから、気にかけるのは特別な事じゃない。
だから俺は間違ってなんかないんだ。
幸せになろうなんて思ってもない。
そんな気持ちはとうの昔に捨てたんだから。
「傷ついてるのはお前だけじゃないんだよ…」
そう呟いても誰にも届かない。
そんな事は分かってた、俺を迎えてくれるあの笑顔はもう戻ってはこない。
「俺だってお前の事昔から大っ嫌いだったよ…」
_____ミーンミーン…
呟く声はセミの鳴き声にかき消された。