• テキストサイズ

melancholia syndrome

第5章 大人と子供


「はーい」

ガチャ

掛けてあった鍵を外し扉を開けると

「こんばんは〜、突撃!隣の家庭教師ですっ!なんつって」

楽しそうな和泉先生の姿があった。

「こんな時間にどうしたんですか?」

先生を玄関に案内しつつ尋ねると先生は靴を脱ぎながら、お邪魔しますと言った。

「んー?君もそろそろテストに向けて本腰入れてるところかなって思ったから少し勉強見てやろうかなってね」

先生は机の前に腰を下ろすと、さっきまで私が解いていた問題集を覗き込む。

「数学やってたんだ」
「はい、ちょっと苦手で…何か飲みますか?」

問題集をパラパラとめくる手を止めずに先生はコーヒーと答えた。

私はコーヒーは飲めないので冷め切った紅茶を自分用に淹れなおして2人分のマグカップを机へと持って行った。

「どうぞ」

机の上にマグカップを置くと先生は一口だけ飲んで問題集の1ページを開いて1つの問題を指差した。

「ココ、授業でも説明したんだけど理解できてる?」

指差す問題は少し応用的な問題で私には少し難しい。

「この問題は後々の分野でも使うから結構大事なんだけど…」

そう言って先生は手近にある紙を手に取る。

サラサラと簡単に問題を書き写すと先生は解説を始めた。

先生の字は男の人にしては綺麗で私は先生の字が好きだった。

解説も五十嵐君のものとは違って私が理解できているか1回1回確認をしながら少しずつ進めていく。

こういう時、先生はすごく教師らしく見える。

私の手が止まるとヒントを出して、あくまでも私が自分で解くようにする。

先生の教え方は五十嵐君とは違うけど分かりやすかった。

一通り解き終えると先生は問題を即興で作り出した。

「さっきの問題の類題だけど、今度は1人でやってみて」
「分かりました」

私が問題を解く間、先生は黙って問題集をパラパラとめくっている。

時折ページをメモしながら私が苦手そうな問題をピックアップしていく。

お互いに黙々と作業をしているお陰で部屋の中は時計のカチ、カチという音だけが響いていた。

/ 58ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp