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melancholia syndrome

第5章 大人と子供


「酷いな〜ボクだって一生懸命生きてんのに」

ソファの上にあったクッションを投げてはキャッチしながら東堂さんは心外そうにそう言う。

「ご、ごめんなさい…でも…」

先生とはあまりにも違いすぎるから…。

「拓也ちゃんとはあまりにも違いすぎる?」
「っ!?」

考えていた事が口から出ていたのかと思った。

でも、そうでは無いようだった。

「図星、みたいだね?」

東堂さんはいつものようにニコッと笑う。

でも、その笑顔はどこか冷たい。

「でもさ、案外君が買いかぶりすぎなのかもよ?」
「えっ…?」

東堂さんはクッションを投げる手を止めて私を見つめる。

まるで、私の心の奥底まで見据えるように。

「拓也ちゃんは、君が思うような人間じゃない」

そう言った東堂さんの目はどこまでも冷め切っていて私はすぐに返事が返せなかった。

「それは…どういう意味ですか…?」

やっとの事でそう口にするが東堂さんは何も答えない。

ただ、その口から笑みは消さずに私の事を見ている。

「さぁね?」

数秒間の沈黙の後、東堂さんはいつもの声音でそう言うとリビングルームから出て行ってしまった。

取り残された私は呆然と東堂さんの後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。

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その後、何事も無かったかのように夕食の時間となり東堂さんもいつも通りだった。

私はそんな東堂さんに微かな不信感を抱きつつも、どうする事も出来ず黙々とカレーを食べる事しか出来無かった。

「はぁ…」

夕食後、自室に戻ってテスト勉強を再開するが集中出来ない。

"君が思うような人間じゃない"

東堂さんの言葉が何度も頭の中をリフレインする。

そもそも、私の中で先生はどんな存在だろうか。

私が見てきた先生は誰よりも生徒思いで、優しくて。

私の中の先生は温かくて、私にとって太陽のような存在だった。

そうじゃない、と言った東堂さんの言葉からすると本当の先生はとても良いイメージとは言えなくなってしまう。

それが私には想像もつかない。

_____ピーンポーン…。

そんな事を考えていたらチャイムが鳴った。

時計を見ると9時を過ぎた辺り、こんな時間に誰が来たのだろうか。

私はカーディガンを羽織ると玄関へと足を運んだ。


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