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melancholia syndrome

第5章 大人と子供


「ただいま帰りました〜」

セピアコートの門をくぐるとカレーの匂いが鼻をかすめる。

お台所を覗くと和泉先生がエプロン姿でカレーを作っているところだった。

「お!お帰り」

先生は私に気付くとカレーを混ぜる手を止めて私にそう言った。

「戸塚さんはいないんですか?」

私は鞄を置いて席に着いた。

いつもなら戸塚さんがお食事の準備をするはず。

だけど、今日は戸塚さんの姿はどこにもなかった。

「あー、戸塚さん今日は帰ってこれないと思う。どうしても今日中に終わらせないといけない仕事があるとか言ってたから」
「そうなんですか…」

つくづく大人は忙しいな、と思った。

子供の私には到底分からないけど、今こうして目の前でカレーを作る先生も学校では忙しそうな姿をよく見かける。

ただでさえいつも疲れているはずなのに、私だけ何もしないのは申し訳ないような気がする。

「あの、先生!私も手伝います!」

私は椅子から立ち上がって先生の元へ駆け寄った。

「えー、いいよ。九条はテスト勉強でもしてなさいって」
「でも…」

伸ばしかけた私の手を押し戻しながら先生はそう言う。

「そ・れ・に、君お嬢様育ちなのに料理とか出来るの?」
「うっ…!」

思わぬところで痛い部分を突かれる。

確かに、まともに料理なんてした事がない…。

先生のお荷物になる訳にもいかないし私は渋々共同スペースのリビングルームへと移動した。

「あれ?唯ちゃん帰ってたのー?」

すると、ソファからひょこっと東堂さんが顔を出した。

テレビを見ていたのか再放送らしきドラマが放送されている。

「東堂さんはお料理しないんですか?」

何気なく尋ねると東堂さんは首を振った。

「ボク、料理出来ないもん。だから、こっちで大人しく待ってるの」
「…。」

前々から思っていたが東堂さんと先生は本当に幼馴染みなのだろうか。

とても同じ時間を過ごしてきたようには見えない。

何と言うか…2人並べると東堂さんがダメな大人に見えてくる…。

「唯ちゃんさ、今ボクの事ダメ人間だと思ったでしょ」
「えっ……!?」

言い当てられて声が裏返る。
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