第1章 森の中で
ニルムは暗い闇に閉ざされた森の中を走った。既に一つ目の山は越えただろうニルムは『走る』から『飛ぶ』に切り替えた。
「風よ風、我の願いを応えよ、汝、我を空を裂く者としたまえッ!」
瞬間、ニルムの身体は重力の縛りから開放された。
そして森の上に出て浅葱色の和服をたなびかせて宙を裂いた。
今まで出したことの無いようなスピードに手足が持ってかれそうな気分になるがそれを堪え歯を食いしばる。
「まっててね....!おじさんッ....!!」
そして二つ目の山を越え、集落が見えて来た、ニルムは集落の手前の森で降りると集落の入口に向かった。
「ん?なんだお前は?こんな夜遅くに」
「あ、門番さん!あのっ『咲渚』て言う薬が欲しいんです!くれませんか!?」
「ん?ああ、いいが...ところでお前何族だ?」
「種族はわからないんです....捨て子のようなので....」
「そ、そうか。それは悪いことを聞いたな..ところでだその人はどんな体躯だ?それによって処方する量が変わってな」
「ええと、ボクの二倍くらいあって玉狸族のおじさんです」
「玉狸族、だと!?....すまないな少年、玉狸族の者にやる薬など無い。悪いが帰ってくれ...」
「そ、そんな!?お願いいたします!もう、死にそうなんですよ!!」
門番の牙猫族の男はすまなそうな顔で言った。
「すまない、帰ってくれ。俺はまだ温和な方だが他の奴に同じ話をするとお前が殺されるかもしれない、そいつのことは諦めろ」
「...そ、そんな.....ッ!?」
ニルムはその場で膝をつき絶望に包まれる中、オウマとの思い出が走馬灯のように蘇った。
一緒に歩いた森の中。
一緒に食べた兎の鍋。
一緒に暮らした家。
そのどれもが輝かしい楽しい記憶。
もう、過去の記憶。