第1章 森の中で
「ふう、....」
2mは十分ありそうな玉狸族の大男、オウマは狸の獣耳と尻尾をピクピクと動かしながら一息ついた。
そして同時に胸を貫くような痛みに顔を顰めた。
「ぐ.....そろそろ、なのか......」
空を仰ぎながらオウマは呟いた。
この病を治す薬はある。しかしその調合は牙猫族しか出来ない、そしてオウマの玉狸族は牙猫族と中が悪くその薬が手に入るとは到底思えなかった。
「真実を告げる時、か.....」
夜、オウマは囲炉裏をニルムと囲いながら唐突に言った。
「ニルム、俺は近いうちに死ぬ」
ニルムは魚の串焼きを両手で持ったままの姿勢で固まった。
「.....え?な、なななんで??」
「そういう病にかかった、幸い感染などのことは無いがとにかく死ぬ可能性が高い」
「え、じゃ、じゃあ薬は!?治す薬はあるんだよね!?」
「ああ、ある。だが無理だ」
「え、なんで!?」
「その薬を調合できるのは牙猫族だけだ。そして俺は玉狸族だ。玉狸族は牙猫族と中が悪く薬が手に入る可能性は皆無だ」
「そ、そんな!ボクは、まだ.....!」
「そう泣きそうな顔をするな。これも運命だと思えばいいんだ」
ニルムは頭が真っ白になった。そんなニルムにオウマはさらに追い討ちを掛ける。
「最後に、だ...お前の父親と母親のことを伝え...る...ッ」
「!?どうしたのおじさん!?」
いきなりオウマがうずくまったのだ、ニルムが慌てるのも無理はなかった。
「...例の病だ、胸を貫くような痛みに襲われてな」
「なっ!?お、おじさん!ボクが薬を取ってくる確かこの山を二つ越えたさきに牙猫族の集落があったはずだよ!ねえ!薬の名前を教えて!」
オウマはニルムの必死な顔を見て言った。
「......フッ、そうだな....俺も少しは生にしがみつくか...お前のことはそこの棚の中にある手紙に書いてある。俺が死んでたら読め....ああ、薬の名前だったな、確か『咲渚』と言ったはずだ...」
それを聞くと同時にニルムは家を飛び出した。
オウマは壁に寄りかかり脂汗を腕で拭いながら荒い息で言った。
「サクヤさん....オウカク.....あんたらの息子はあんたに負けないぐらいに優しい子に育ったぜ....」