第1章 森の中で
「おじさーん!ほら見て兎!帰りにとってきたんだ!」
少年は駆け寄りながら木造の家の前で薪を割る少年の二倍はあろうかという玉狸族の男に声をかけた。
男は顔を上げ首に巻いていたタオルで汗を拭いてから少年に言った。
「おおそうか、今日は兎の鍋だな、ニルム」
どうやら少年はニルムと言うようだった。そしてニルムは男に頭をわしゃわしゃと撫でられながら満面の笑みで。
「うん!」
その日の夜、案の定夕食は兎の鍋だった。
ニルムは浅葱色に群青色の徽章を施した和服の袖をブンブンと上げて箸を持ちおじさん/オウマに尋ねた。
「ねえまだ!?」
「まだだ、そら行儀良く座ってろじゃないと食わせんぞ?」
「あ、あう...」
そう言われ、ニルムはしぶしぶ座る。
オウマは木杓を片手に蓋を開け中の具合をのぞき見た。
「よし、できたぞ。ニルム」
「ホント!?やった!」
「ああ、そら」
そう言って木杓で具材を掬い、皿に乗せてニルムに差し出す。
「ありがとっおじさん!いただきます!」
オウマはその様子をみて微笑み、自分も皿に鍋の具材を盛り付け食べだした。