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おとことおんなとこどもとおとな

第1章 おとことおんなとこどもとおとな


「それにしても、悟さんがあんな事をやる人だなんて思いませんでした。」
「ご本人様も「まさか俺がこんな臭い事をやるなんてなぁ・・・。」と仰られていましたよ。」
私としては楽しかったですけどね。マスターは星が飛び出しそうなウインクをしてくれた。
「悟さん、なんでこんな臭い事やろうと思ったんでしょうね?普通にプレゼントするだけでよかっただろうに。」
「あぁ、それはですね・・・。」
マスターはきょろきょろと、まるで悟さんがこちらを見ていないか確認するように辺りを見渡す。
「これこそ本当に内緒ですよ?」
マスターが顔を近づけて来たので、あたしも耳をその口元に寄せた。

こんな事やるのは初めてだし、今までの人生で一番恥ずかしい事してるし、俺らしくないなって思うけどさ。
沙織はいつも俺を支えてくれてるのに、俺はあいつに寂しい思いばかりさせているから・・・。
ずーっと思い出に残って、後で思い返しても幸せになれるような、そんな誕生日にしたいんだよね。

「・・・と零しておられましたよ。」
話し終えると、マスターはにっこり笑って「カクテルのおかわりはいりますか?」とグラスを指し示してくれた。
「もう!照れて顔が熱いので!お水ください!酔ったのかな!?」
「レモン水にしますか?さっぱりしますよ。」
「お願いします!」
顔から湯気を出すあたしを見て、マスターは「氷を多めにしますね。」とどこまでもサービスしてくれた。


レモン水が出て来るまで、あたしは指輪に視線を落とした。
店内は薄暗いのに、指輪はそのわずかな光を受けてキラキラと輝いている。
「・・・こんな良いもの、お金も相当かかっただろうに。」
いや、金額なんてどうでもいい。そうやって頑張ってくれた事が何より嬉しい。
堅実な悟さんを突き動かす程の魅力があたしにはあったのかな、なんて自意識過剰かもしれないけれど、そうかもしれないと考えると心が弾んだ。
「そうそう、これは私の持論なんですけどね。」
レモンの刺さったグラスが出て来て、顔を上げるとお茶目な顔のマスター。
「男って生き物は、好きな人のためならどんな事だって出来るし、子供みたいになっちゃうものなんですよ。」
「・・・えへへー。」
あたしは嬉しくて嬉しくて、レモン水を飲むより先に、その冷たいグラスを熱いほっぺたに押し付けた。
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