第1章 おとことおんなとこどもとおとな
翌日。あたしは今日もバーに来ていた。
「今日はお一人なんですね。」
カクテルを出すついでにマスターが声をかけてきた。
「ええ!」
「ご機嫌ですね。」
マスターに笑われるほど、あたしの声は普段よりワントーン高かった。
「昨日の事があんまり嬉しくて誰かに自慢したくなったんですよ。で、マスターなら聞いてくれるかなーと思って今日は来ちゃいました。」
「はははっ!いやーそれだけ喜んでくださると、片棒担いだ私としても嬉しいですよ。」
マスターは本当に嬉しそうに笑ってくれた。あたしとしてもノロケやすくて嬉しい限りだ。
あたしは鞄を漁って、青いリボンがかかった小さな箱を取り出した。
「本当に昨日はマスターにしてやられました!」
箱を開けるとそこにはもちろん、昨日のバースデープレゼント。
「これ、悟さんがマスターに頼んだんですよね?いつの間に?」
「うーん・・・私が勝手にネタバレするのもいかがかと・・・。」
困った顔で笑うマスターをジッと見つめる。「やめてくださいよー。」と言われてもジッと見つめる。何だろうとジッと見つめる。見つめる。見つめる。
「・・・ご本人様には内緒ですよ?」
観念したマスターは、耳打ちするように、でも楽しそうにこっそりと話してくれた。
「今度沙織の誕生日でな。プレゼントにこれを上げたいんだよ。」
一週間ほど前、そう言って悟さんは小箱をマスターに渡したらしい。
「素敵ですね。さぞお喜びになる事でしょう。」
「そう、喜んで欲しいんだ。だから俺はサプライズというものをしてみようと思ってるんだが、マスターも協力してくれないか?」
よく映画なんかであるだろ?シャンパンの中に指輪が入ってるとか。
その言葉で悪戯好きのマスターはすぐにピンと来たとの事。
「それでは、誕生日のオリジナルカクテルという事で私が作ってるフリをして、何も入っていないグラスにプレゼントを入れて何食わぬ顔でお出しする、なんていかがでしょうか?」
「おぉ!さすがマスター!よしっ、それでいこう。」
「注文する際は、とにかく自然に!バレないように!素知らぬ顔でいてくださいね。」
「げっ・・・上手く出来るかな・・・。」
「それぐらいは努力なさってくださいよ。」
悟さんは相当渋い顔で「俺、演技なんて出来ないよ。」と頭を抱えましたとさ。