第1章 おとことおんなとこどもとおとな
「俺達さ。」
あたしが喜びをあらわにする前に悟さんが口を開いた。
「色々あって・・・難しいけどさ。」
マスターがいる手前、はっきりと名言はしないけど分かる。難しいのは、あたし達が一緒になる事。
「それでも俺が沙織の事を思ってるのを見せたくてさ。」
両手であたしの左手を握る悟さん。
「誕生日おめでとう。」
優しく笑いかける悟さんは、いつも以上にかっこよかった。
・・・本音を言えば、そりゃあ悟さんと結婚したい。
こんな風に隠れるように会うより、気兼ねなくいつも一緒にいたい。
ご飯を作ったり、愚痴を聞いたり、子育てしたり、たまには旅行に行ったり・・・そうやって2人で仲良く歳を取って行きたい。
でもあたしだって我侭な子供じゃない。例え自分達の気持ちに正直に生きたって、誰も幸せになれない事ぐらい分かっている。
あたし達は妥協に妥協を重ねて、この関係を続けて行くしか道は無いんだ。
「ありがとうございます。嬉しいです。」
だからこの結婚指輪のようなプレゼントは、嬉しい反面ちょっぴり切ない。
「今度一緒にサイズ直ししに行こうか。」
「そうですね。」
切ないけれど、それでも嬉しい事には変わりない。
左手を掲げて指輪を見る。ぶかぶかだけれど綺麗だ。
結婚指輪ではないけれどそれは確かに左手薬指にはまっていて、一緒にはなれないけれど気持ちは確かに綺麗だった。
嬉しくて、切なくて、胸がはち切れて飛んで行きそうだ。
「・・・幸せです。」
思わず涙を流したあたしを見て、悟さんはマスターと目配せして満足げに笑った。