第1章 おとことおんなとこどもとおとな
「グラスが空いたな。何か飲むか?」
あたしの空っぽのグラスを見て、悟さんが気を効かせてマスターを呼んでくれた。
「うーん・・・いつも迷っちゃうんですよね。」
バーというものはメニューが多い。カシスオレンジのような有名どころ、アルコールの強いもの、色が綺麗なもの、自分でフルーツを絞って作るもの、果ては名前では何から作ってるのか分からないようなものまで。
全メニューを制覇する勢いであれこれ頼んでいるけれど、実際に制覇出来るのはいつなのだろうか?
「毎月のように限定メニューまで出て来るんだから目移りしちゃいますよ。」
マスターに言うと、マスターは目尻を下げて微笑んだ。
「それならマスターに頼んでみたらどうだ?」
悟さんの提案に、あたしのテンションはうなぎ上り。
「頼むって、あたしのイメージで作ってください!とか言うアレですか?」
「そうそう。」
「出来るんですか!?」
「出来ますよ。」
マスターはにっこり笑ってシェイカーを構えるポーズ。お茶目だなぁ。
「マスター。彼女、今日が誕生日なんだよ。」
「それはおめでとうございます。では、小島様の誕生日にぴったりのカクテルはいかがですか?」
「お願いします!」
上機嫌なあたしは前のめり気味で答える。悟さんも嬉しそうに笑っていた。
「それでは少々お待ちくださいませ。」
マスターは席を離れて、お酒の瓶を出したりシェーカーに注いだり。忙しそうなのに、その動きは優雅で洗練されている。
ふと隣を見ると、悟さんがあたしを見守るように見つめていた。
「どんなのが出来ますかね?」
「さあ、どうだろうな。」
「やっぱり、誕生日とかお祝いって意味のカクテルですかね?」
「俺もカクテルの意味はあまり知らないからなぁ。」
「ワクワクしますね。」
「だな。」
シェーカーを振るマスターに合わせるように、あたしも右に左に揺れてカクテルを待った。