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おとことおんなとこどもとおとな

第1章 おとことおんなとこどもとおとな


最初はあたしの、漠然とした憧れだった。
悟さんは会社の上司で、同期の中でも出世街道まっしぐら、人柄も良く人望も厚い、とにかくかっこいい人。
しかし悟さんには年相応に奥様がいて、お子さんも3人いて、幸せな家庭というものを築き上げていたから本気になるつもりは無かった。

まぁ、そもそも年齢も離れているし、あたしみたいな小娘には無理だよね。

「部長ってかっこいいですよねー。あたしも部長みたいな人と結婚したいですよー。」
だからあたしとしては、飲みの席で彼をちやほやするような、アイドルおっかけのミーハーな振る舞いをしている程度だった。
「照れるなぁ。小島さんもよく気が利くし、いい奥さんになれると思うよ?」
向こうとしても、褒められたから褒め返すような、大人としての建前程度の対応だと思っていた。



なのに半年前、会社で2人きりの残業をしていた時から事態は一変した。


「妻とは関係が冷えきっているし、子供の養育費は俺にかかっているし、毎日疲れるよ。」
深夜に人は気持ちが弱くなりがちだ。あの時は繁忙期で、残業続きの悟さんは弱り切っていたように思う。
「部長は努力家ですし、優しい方でもありますから、いろいろ溜め込んじゃって疲れるのかもしれませんね。」
弱音を吐く部長なんて初めて見たけれど、弱みを見せられるくらいあたしに心を許してくれてるんだなって嬉しかった。
「俺はそんなに出来た人間じゃないよ。妻にもよく嫌味を言われてるしな。」
寂しそうに笑う部長が痛々しくて、ここまで部長を追い込んでいる奥様が許せなかった。
「失礼ですけど、奥様はズルいですね。こんなに素敵な旦那様がいらっしゃるのに文句ばかりなんて。あたし、奥様を羨ましいぐらいに思ってたんですよ?」
弱音を吐く部長のように、ついあたしも本音が出てしまったのかもしれない。

「あたしが部長の奥さんだったら、美味しいご飯を作って、愚痴を聞いたりして、とにかく笑顔になってもらえるよう支えるのにな。」

後はもう、自然の成り行きだった。
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