第19章 いじめ
思ってもみなかった言葉に、聞き返してしまった
恥ずかしい?
何が恥ずかしいんだ?
は、唇を噛みしめていた
口を開くたび、その唇は震えていた
俺は、彼女の吐き出す「本音」を待った
静かにゆっくりと、だけど確実に彼女は言葉を紡ぐ
『知られたくないの。お父さんにもお母さんにも。一くんにも』
「なんで?恥ずかしいから?」
こくん、と一度だけ頷く
彼女の頬には、いくつもの涙がこぼれていた
『弱いって思われるじゃん。自分の子供がいじめにあってるって知ったら情けなく思うでしょ……?もしかしたら嫌われちゃうかもしれない!そんなの嫌っ!!怖いの……。嫌われたくないんだよ!!』
堰を切ったかのようにあふれる彼女の悲痛な「本音」は、俺の心の奥の奥まで突き刺さった
息が苦しくなる
いじめられている奴が相談できないのは
"相談したらもっといじめられるから"とか"迷惑かけたくない"とかだと思っていた
いや、それも間違ってはいないのだろう
でも本当の気持ちは―――――本音は、こっちなのかもしれない
大好きな人に嫌われたくない
情けないって、弱い人間だって思われたくない
だから必死に虚勢を張って、弱い自分を隠して
でも、そんな自分がだんだんみじめに思えてきて
だけど、言わない。言えない
俺は、手を伸ばしの髪に触れた
「大丈夫だよ」
咄嗟にでた言葉は、ありふれた言葉
何が大丈夫なんだよ、と言いたくなる
でも、これ以外の言葉なんて見つからない
ぐしゃぐしゃの顔で見上げてくる
俺は口元を緩め
「恥ずかしくなんてない、大丈夫だ」
ポロッと大きな瞳から大きな涙がこぼれた
それが引き金となり、は顔をゆがめ、また泣いた
声を出して泣いた
抱きしめてやりたいと思ったが、ばれた時のことを考え、俺は頭を何度も撫でた