第13章 俺の好きな人
2年9月
事件が起こった
あいつが交通事故に遭って意識不明の重体で病院に運ばれた
血の気が引いた
今すぐにでも駆けつけたかった
でも、できなかった
理由はわからない
わからないけど、できない自分に嫌気がさした
岩泉なら、教室を飛び出す勢いで向かうんだろうななんて思ってしまって
岩泉と自分を比べて、自分が劣等な人間だということが嫌って言うほど、身に染みた
ある日、岩泉が荒れた
あいつと別れたということを知ったのは
岩泉を連れてファミレスに立ち寄った時
チャンスだと思った
チャンスだと思ったが、岩泉の苦しそうな顔を見て
そんな思いはどこかに消えた
俺はどうやらあいつだけじゃなく、岩泉にも惚れていたらしい
惚れるって言っても恋愛感情ではなく友情、という意味でだ
まぁ、そういうわけだから俺は一生かかってでも岩泉には勝てないんだなって思った
そしてそれでもいいとすら思えてきた
本当にきれいごとだけど、俺はあいつと同じくらいに岩泉のことを大切に思っているみたいだ
岩泉だけじゃなくて、及川も花巻もチームメイトも、全員
そんなこと口には言わないけどな
恥ずかしすぎて、口に出したら死ねる