第13章 俺の好きな人
「オメデトウ」
棒読みで感情がこもってない声でそう言った
「よかったんじゃね?許嫁なら大好きな岩泉君と結婚できるんですよ?」
『……松川君、怒ってる?』
「怒ってねえよ。ただ……」
『ただ……?』
「……なんでもない」
喉から溢れ出す言葉を飲み込んだ
今ここで、いらないことを言っちまったらこいつを困らせるだけだ
「あいつは知ってんの?」
『まだ知らないと思う』
うつむいて、眉を下げながら彼女は言った
許嫁だって言ってもお父さんが勝手に決めたことだし
きっと岩泉は自分のことなんてどうも思ってない
どうも思ってない人と付き合うほど、岩泉は軽い男じゃない
と言った
よくわかってるなと感心してしまった
まぁ、毎日見てるんだし、わかるもんなんだろうな
「でもそのうちあいつも知ると思うから、それまで大人しくしてたら?知ったら知ったであいつもなにかしら行動は起こすべ」
『うん、わかった。なんかごめんね、いつも相談に乗ってもらって』
「別に、平気だ」
『松川君にも好きな人ができたら、その時は相談に乗ってあげるね!』
無垢、とはどうしてこんなにも残酷なんだろう
彼女の言葉一つ一つが心臓に矢のごとく突き刺さる
笑ってごまかしたけど、かなりのダメージをくらった