第10章 紅色の刀身
「あ……っ! た、助けて下さいっ!! 私は今鬼に追われているのですっ」
「鬼……?」
殺生丸が眉を潜める。女を追うような、地響きが今度はこちらへ近付いて来る。櫻子は自らの背に女を隠して、羅刹桜牙を構えた。
「櫻子、こんなところで足止めを食らうわけにはいかん。行くぞ」
「いえ……行きません。もし鬼であるなら、目的の鬼の可能性もあります」
先程まで一喜一憂していた櫻子はもういない。より一層真剣な眼差しで、地響きの方向を睨み付けている。柄を握る手も、震えてはいない。とても冷静だ。殺生丸はその様子が少し興味深かったのか「好きにしろ」と吐き捨てた。
「女は何処だっ!!!」
「来た……っ!」
女がそう叫ぶと、鬼が草木を薙ぎ払い姿を現す。櫻子達が今まで見て来たような鬼とは、少し違っていた。確かに鬼に違いはないのだろうが……。
「我の名は悟心鬼(ごしんき) お前……もしや玉依姫か?」
「え……?」
「ひゃははっ! 俺は運がいいのかね。玉依姫の霊力を食らえば、俺はまた強くなれる!」
悟心鬼はくつくつと喉を鳴らし笑いながら、櫻子へと襲い掛かる。大きな爪が、櫻子を覆い隠すように。
「っ……! 貴方は逃げてっ」
「え?」
後ろに隠していた女の人を、櫻子は無理矢理後方へと押し退ける。そして鬼と対峙するように刀を構える。