第1章 乙女の姿しばし留めん
旧暦十一月。
新嘗祭の準備に二条院の里内裏は華やいでいた。
新嘗祭の最後を飾る豊明節会、その宴で舞う今年の五節の舞姫は、四人いずれも美人揃いとの評判が立っていたからである。
元服を翌年に控え、童殿上をしている右大臣の三男、良彰にも、その華やぎは伝わっていた。
丑の日に舞姫たちは二条院内裏へ参入する。
庭には篝火が焚かれ、夜の内裏は艶めかしく照らされていた。
舞姫たちは筵道の上を、殿上人たちの囲う几帳に隠されて進む。そして東の対と西の対にそれぞれ設けられた控え室に入るのである。
しずしずと参入する舞姫一人に対し、童女ら十数人の随行者が従い、几帳の角を持つ殿上人、あるいは脂燭を持った者たちが付きそう。几帳の垂らされた布が風になびき、若い舞姫の姿が見え隠れする。実際に目の当たりにすればどれほどの美しさであろうかと、いやがおうにも想像をかきたてられる。公卿あるいは受領たちが工夫を凝らした衣裳に身を包んだ随行者の姿も明かりに照らされ、天女の一行もかくやと思われる一大パレードなのであった。
二条院内裏の東北の対の御簾からは出だし衣が一斉に出され、この東北の対を御座所にしている中宮の女房が数多く控えていることが知られた。
帝もまた、中宮とともに東北の対から舞姫参入を見物されているらしい。
誰にとっても浮き立つような心地のする、そんな宵であった。