第1章 まるでオーストラリアのサンタみたいに(赤葦京治)
「赤葦くんて、ファッションにはけっこう疎いんだね」
ホットココアを飲みながら、向かいに座る彼に尋ねた。
通りに面した喫茶店。柔らかい空気と一緒に店内に流れているのも、ジャズ・アレンジのジングルベルだ。
「そうかもしれません。ちゃんと身体に合ってて、変に浮かなきゃ何でもいいって感じです」
そう答える赤葦くんの、脱いだコートの下は白のシャツにネイビーのカーディガン。うん。無難。ザ・平凡。だけど、整った容姿のせいか上品に見える。
「マフラー、ありがとうございます」
そう言って、照れたように首元にかかるそれに顔を埋めている。それも取りなさいよ、と言ったら、せっかく上手く結べたので、と言って解いてくれない。まあ木兎じゃないからコーヒーを零すことはないだろうけど。
「なまえさんは、お洒落に敏感なんですね」
「うん、洋服は大好き」
「これが流行ってるあれが流行ってる、って、お店に入る度に言ってましたね」
「そうだった?でも、流行って大事でしょ?」
尋ねると、頷きながらも「俺はあんまり気にしたことないんです。バレーばっかりで」とカップを置いて鼻の頭を触った。あ、わかったぞ、と彼の思考回路が読めた。
「赤葦くんは、あれでしょ、みんな同じになっちゃうのが嫌なタイプでしょ?」
「そうかもしれないです。というか、そうです。クリスマスも、ファッションも、周りに流されるのはなんだか馬鹿馬鹿しくって」
あと、着れれば何でもいいやって思ってるので、無駄に高いブランドものも意味がわからないです。
そう言って笑う彼に、「でも流行って大事だよ」と私はまた繰り返した。「ファッションのトレンドってさ、誰がいつ作ってるか、赤葦くん、知ってる?」
「え……メディア、ですかね。雑誌とか、テレビとか」
首を傾げた赤葦くんに「それは広める役目なだけで、流行の生まれる場所は違うんだよ」とテーブルに肘をついて言った。「最初はね、流行色から決めていくんだって。国際会議で、2年前から」