第45章 類を以て集まるも懐を開く義理はない(及川徹)
こう表現したら言葉が悪くなるけれど、鼻持ちならないというか、そんな気持ちは私だって持っている。学校って気を遣わなきゃいけないことがいっぱいあるのに、それを全部唾棄してオープンに”好き”へ手を伸ばし”嫌い”を表明できる及川は、私と違って自由に見える。別に羨んでいるわけではないけど。
松川と花巻が去ったあとも、及川の攻撃は続いた。
「なーんかさぁ、なまえって、俺に対してだけ性格悪くない?」
ストレートな物言いに絶句する。更に図星でもあるから、「そ、そうかなぁ」と苦し紛れにとぼけることしかできない自分。幸あれ、献杯。
「あ、自覚なかった?じゃあ素の性格だったんだ」
「受け取り側である及川の問題じゃないかなぁ、ほら、被害妄想って言葉もあるし」
「そう思う?」
にこにことしているけど目は笑ってない。たぶん私も同じだろう。こんなに相性が悪いのに同じクラスの隣の席になってしまっているなんて、現実って滑稽だ。私と及川の席の間には、他の机周りには無い奇妙な空間が設けられていた。
「はー、馬鹿らし」
急に醒めたらしい及川は、大きく溜息を吐いて椅子の背もたれに体重を預けた。「お互い肚の中は似てると思うんだけどさ。俺、お前のこと嫌いなんだよね」
嫌い、と言葉で言われたのは初めてだと思う。というか異性に向かってそれってどうなの。
「なまえだって同じでしょ」
心の声を読んだらしい及川が投げつけるように聞いてくる。今更八方美人しても通用しないだろうから、そうだね、と私はぽつり肯定した。
「私も・・・」言いかけて止まる。続きが出てこなくて詰まる。あれ、私も嫌いって言おうとしてる?私って及川のこと嫌いなの?
決めかねる。嫌われてる自覚はあるけど、私自身はどうなんだ?
はっきりとした顔立ち。分かりやすい性格。なのに勝手に自分で自分をかき回して私に喧嘩を売ってくる。って私なりの分析を噛ましていると、及川の表情が少しずつ曇っていった。僅かながら、たじろいでいる様子が伝わってきた。
「そこで考えこまれると、俺も困るんだけど」
「あぁ、そうだね、ごめん」慌てて下を向いて結論を出す。「私も及川のこと、す、好きではないかな」
視線を合わせないようにぎこちなく言うと、「だよね」と幾分かほっとしたような声が聞こえた。
おしまい