第1章 まるでオーストラリアのサンタみたいに(赤葦京治)
「赤葦くん、ちょっと、」
「何ですか?」
きょとんと固まる彼の手から、マフラーをするんと抜き取った。
左右の長さを調節して、彼の首にかけて、1周巻き付ける。
余った両端を前でクロスしたとき、180cm越えの長身が緊張で強張るのがわかった。首元にできた輪に、手を入れてマフラーの先端を通してあげる。
ネクタイを結んでもらうようなその動作が慣れなかったのか、彼がいきなり首をぐっと反らしたもんだから私の指先が喉仏に触れてしまった。うぐ、と彼の身体が揺れる。はっとして私も手を止めた。
「「……………」」
至近距離で視線が絡む。
「……に、似合うね」
「……あ、りがとうございま、」
す、
と聞こえる前に顔を逸らした。横に置いてある姿見に真っ赤な顔の自分が映っていた。マフラーに手をかけたまま、鏡の中の彼と目が合って、慌てて前を向くとまた目が合って。
「ご、ごめんね!」
「いえ…………!」
ものすごく微妙な空気のまま、2人でそそくさとレジへ向かった。
いま使います、と赤葦くんが呟いたから、値札とシールは剥がしてもらった。教えてください、と言われたからさっきの巻き方を教えてあげる。かぎ結びって言うんだよ、これ。と言うと、そういうの、俺全然知らないんです、と困ったような顔をされた。また1つ、私と彼との違いを見つけた。