第13章 Tell me the right way!!(及川徹)
「そうやってフラフラしてても、浅い部分しか覚えらんないからね?まずは参考書を1冊に絞るトコからはじめようよ」
もっともな指摘だったが、む、としか答えられなかった。参考書に限らず、私はフラフラしてばっかりいる。
赤シートで単語を隠して覚えていたのに、発音も大事かもしれないと声にだしながら部屋の中を歩き回りだす。かと思えばやっぱりつづりを覚えなければと紙にひたすら書いていく。そうして今日は頑張ったなとベッドに潜り込むけれど、実は最初の数十ページばかりを往復していて、後ろ半分は綺麗なまま、次の単語帳を本屋で買っていたりする。
「私って、この勉強法で合ってるのかいつも心配になってるのかも」
努力の方向性があってるかどうかなんて、始めた時点じゃわからない。テストの結果が返ってようやく、こっちで正解だったと気付くんだ。なんだか恋愛も勉強も同じな気がしてきた。
「私達には時間がないよ」
机の横に立った及川を見る。「受験まで残り数ヶ月、結婚もするなら人生で1回きりがいい。道を間違っている時間はない」
「なのにスタートでぐるぐるしてるなまえちゃん」
「うるさいなぁ」
ヘラヘラした顔に向かってパンチを繰り出すと、簡単に受け止められてしまった。私のグーを大きなパーで包み込まれる。いつだってそうかもしれない。私がみっともなく藻掻いても、及川はどこ吹く風で余裕ありげに笑っているのだ。
「及川は、なんでそんなにひたむきに頑張れるの?」
少しだけ惨めになってそう尋ねると「自分じゃよくわかんない」とかわされてしまう。「でもあれだよ?」と及川が私の拳を握ったまま床に片膝をついた。
「なまえちゃんが目指すべきことは、単語を覚えることじゃなくて受験に合格することだからね」
椅子に座っている私よりも低い位置から、及川が見上げてくる。「遠くの目標を見ろってこと?」と見つめ返せば、「そうかもね」と及川の両手が私の右手を優しく包んだ。
「今日の自分の頑張りだけが、未来の自分を助けるんだよ」
そう言って私の拳を丁寧に開いて、ぎゅっと指を絡ませてきた。ついでに私の心臓もぎゅっと鷲掴みされたみたいに苦しくなる。
「俺はなまえちゃんの代わりに勉強することはできないけれど、わからないことがあったらいつでも聞いてね。教えてあげる」