第13章 Tell me the right way!!(及川徹)
「……及川が優しいって、なんだか調子狂うなぁ」
「そんなこと言わないでよ」
俺はいつだって優しいじゃんか、とはにかんだ後、及川は急に真面目な顔をして口を開いた。「正直言っていい?」
「………どうぞ」
「なまえちゃんがあいつと別れてくれて、俺は死ぬほど嬉しい」
ぎゅ、とまた力を込めて手を握られる。
椅子に座る私の手を取って、低い位置から見上げる及川の目を見れば、その嬉しいは他人の不幸を喜ぶ嬉しいじゃないことぐらいすぐにわかった。
実はずっと好きでした。と、整った形の唇が動く。
「傷心直後で気にしないなら、俺と付き合ってください。大切にします」
真っ直ぐな瞳に撃ちぬかれて、背中をゾクゾクとしたものが走り抜けていく。突然の展開に面食らってしまって声が出せない。
いつから及川は私のことを好きでいてくれていて、どうしてこのタイミングで打ち明けたのだろう。考えてもわからない。
しかし真面目な告白には真面目な返事が付き物だ。姿勢を正して、こくん、と唾を飲み込んだ。視線を逸らすと、机に置かれたスマートフォン。
幸せな未来に辿り着くため、出発点は間違えちゃいけない。時間はいつだって進んでいるのだ。無駄にはできない。でもタイマーは残り10秒で、あれこれ迷うには少し時間が足りないみたいだ。
おしまい