第13章 Tell me the right way!!(及川徹)
「1分経ったよ、及川」
「あと5分だけ延長します!」
流れるようにタイマーをセットし直した及川は、「正直言っていい?」と顔を輝かせて聞いてきた。こういう時の及川は、ろくなことを言った試しがない。「どうぞ」と嫌々ながらも促せば、「すぐ別れると思ってた☆」と今世紀最大のゲス顔。
「なまえちゃん、3ヶ月以上続いたことあったっけ?」
「ないよ。だってこの人でいいのかな、って、いつも不安になるんだもん」
その不安が少しの壁を作って、それが相手にも伝わっていつも気付けばフラれてしまう。私は悪くない。悪いのは不安にさせる男どもだ。
「そうやってどんどん乗り換えるからなまえちゃん、無駄に戦歴だけはあるんだよね」
「誰が私を幸せな未来へ連れってってくれるかなんて、付き合ってみないとわからないじゃない」
「俺はこう見えて一途ですけど」
「聞いてませんって」
突っ込んでから「あぁ、今回こそ運命の人だと思ったのに!」と頭上を仰ぐ。仰いでも天井と長身の及川の顔しか見えない。この世の終わりだ。
「だから大学生なんてやめとけって言ったじゃない」
清々しそうな顔で及川が言う。「女の子って、歳上と付き合うと自分も成長できると勘違いしてる節があるよね」
「違うの?」
「歳なんて寝てても勝手に増えてくじゃんか。問題は数字じゃなくて中身でしょ」
「偉そうに」
お前の言う台詞じゃないだろ、と軽く小突いた。しかし及川の言う通り、私の元カレ、いや、もはや赤の他人となったアイツは中身が幼すぎた。ハタチを過ぎた男がこれでいいのかと高3の私が呆れてしまうほどだった。
「幸せな未来への栄えある第一歩だと思ってたのにな」
机の上に両肘をついて、組んだ両手の上に顎を乗せる。
「出発点から間違えてたパターンなんだね」
及川が笑う。確かにその通り過ぎて反論も出来ない。
「甘い結婚生活に辿り着く予定だったのに、いきなり道を間違ってしまったわ」
そう言いながら、頭の中で過去の男との記憶のデータをゴミ箱にドラッグ&ドロップ。無駄な時間を費やしてくれてどうもありがとう。