第13章 Tell me the right way!!(及川徹)
「最低、最悪、私の人生どん詰まり」
タイミングを計って悲嘆に暮れてみた。ちょうど偶然にも、及川徹が私の机の横をすり抜けていく。
「もうだめ、誰か私の悩みを聞いて」
大袈裟に呟くと、ぴたり。彼の足が止まった。そのまま動画を巻き戻すみたいに、後ろ向きで3歩下がって私の横で立ち止まる。
「……誰かが俺を呼んでる気がする」
「助けて及川徹くん」
「俺はこれから部活へ行きます」
「助けて及川徹くん」
少しの沈黙の後、「しょうがないなぁ」と及川がスマホを机の上に乗せてきた。「1分間だけ聞いてあげよう」
そしてセットされるタイマー。「はい、スタート」
「えっ、もう始まってる?」
「時間はいつも進んでるんだよ」
減っていく秒数を見ながら及川が口を尖らせる。相変わらずちゃらけて少し意地悪な奴。
何を焦っているのか知らないけれど、彼は高校生活を私のスピードの3倍速で駆け抜けている。きっと、忙しい方が性に合っているのだろう。
「さぁなまえちゃん!」
大きく両腕を広げて及川が言う。「困ったことを言ってごらん!さぁ!」
「模試の結果が最低でした」
「…………」
「…………」
「…………えっ、終わり?」
「うん」
「お疲れ様でーす」
再び歩き出した及川の腕を無言で掴む。「あと彼氏と別れた」と付け足したところ、「ほんとに!?」とすかさず食いついてきた。
「あんなにラブラブだったのに!?なんで?なんで?」
急にイキイキし出す及川徹。こいつは他人の不幸を素直に喜ぶ性格である。
「なんで別れちゃったの?フラれた?フッた?」
「お願いだから聞かないで。私は受験に集中するの」
「うわぁー!フラれたんだー!」
岩ちゃんにも教えてあげよーっと!なんて見せつけるようにガッツポーズまでしてきたので、私は椅子に座ったまま、及川の腰辺りをスパンッと叩いた。
殴るなんてヒドい!ウザいほうが悪い!の押し問答をしていたら、テレテレ、と妙な音のタイマーが鳴る。